足を踏み出して

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#33

公開日時: 2022年1月27日(木) 09:41
文字数:1,018

「昨日、朱理に会ってきたの」


 抗議している私を見て頼りにならないと思ったのか、カオルが本題に入った。向かいに座る舞の視線は、刺すように鋭くカオルに向けられている。


 カオルは、自分の昔話を除き、昨日の出来事を事細かく説明した。


 その説明は飽くまでも説明で、自分が朱理に寄せる思いや、朱理はおそらくこうなのでは? という見解は含まれていない。


 昨日の出来事を話し終えると、次に、図書館に向かいながら私が話した、朱理の情報を話した。


「この話を聞いても、朱理が許せない?」


 私達が持っている朱理の情報は出し終えたので、これから私達が出来るのは説得だけである。朱理の性格を踏まえ、朱理の想いを考え、舞を説得するしかない。


「どんな理由があっても、酷い傷を負わせたんだ。許せないよ」


「舞、朱理は好きでカオルを襲ったんじゃないの」


 ここは私が言わなくてはと、無難に説得する。


「そう言うけど、円佳はカオルの傷跡を見たの? あの傷跡を見せられたら、無条件に許せっていうほうが無理だよ」


「そんなに酷いの?」


 カオルに問いかけると、カオルは一瞬服の袖を捲り、傷口を見せた。一瞬だから分からなかったけれど、傷口はかなり長かった。


「大袈裟に血が出たから救急車で病院に行ったけど、そんなにハッキリと跡は残らないって言ってたし、大したことないよ」


「跡、残るの?」


「最悪でも、うっすらと。残ったとしても気にならない程度」


 特に気にした素振りを見せずに、いつもの調子で答える。この受け答えの軽さは、朱理の罪を軽くする為の演技なのだろうか? それとも、今よりほんの少し先の未来を考えているから、成せる技なのだろうか?


「なんか、舞っていつも朱理を許せない原因に私をあげるけど、私は朱理に怒りを感じてないし、仲良くしたいと思ってるの。私を傷つけた事件を棚に上げて朱理にキレられても、いい迷惑。私はこの怪我が切っ掛けで仲良くなれて良かったと思ってるんだから」


「そんなつもりじゃ」


「そんなつもりじゃないのは分かってるけど、今の舞の態度はみんなにそう取られて当たり前だよ」


 舞は、自分がそのように見られているのか確かめるように、私とるんの顔を窺った。


 舞とるんの視線が交差すると、るんが口を開いた。


「あのさ、カオルを襲った事件がなかったとして、真っ白な気持ちで朱理さんの状態を聞いたとしたら、舞はどう思う? すぐにパニックになって人を襲ってしまう朱理さんを、忌み嫌う? それとも、何とかしてあげようって努力する?」

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