なるほど、そんなものかもしれない。前テレビで見たけれど、東京の名所に詳しく、色々なお店を知っている人は、高校を卒業し東京に出てきて二年しか経っていない人だった。
「深見池ではね、大蛇が娘に変身して現れるって伝説があるの。
かつて、川路に貝鞍の池と呼ぶ大きな池があって、主の大蛇が住んでいたの。
貝鞍という池を埋め立てて、新しい田を作ろうとした時、その辺りでは見かけない美しい娘が一人、天竜川の川沿いを歩き深みの里へやってきた。
深見の里の畑は青々と実り、のどかな風景が広がっていた。そののどかな風景を見ながら娘は、一軒の農家を訪れ、旅の者ですが、この家で使っていただけませんかと頼み込んだの。
娘の頼みを聞いた農家の主人は、うちには大した用事はないが、疲れているようなので当分ここで休んでいくがいい。遠慮はいらねえ、と親切に受け入れた。
娘が家に厄介になって三日目の朝、娘は井戸に水を汲みに行ったきり帰ってこなかった。井戸端には娘の下駄が脱ぎ捨ててあり、村人が井戸をさらって探してみたけれど、結局娘は見つからなかった。
それからしばらくしたある日、晴れていた空がにわかに曇り始めて、黒雲が広がると同時に稲光が走り、大雷雨となって深見の里一帯を真っ暗闇に包み込んだ。
雷鳴がやんだ後、村人達が安堵の笑みを浮かべ外に出て、辺りを見回してみると、今まで青々としていた麦畑が見渡す限りの大地になっていたの。
異変を目の当たりにした村人達は、口々に『竜神様のお怒りだ。お祭りをして、水の霊を慰めなくては』と、村ではただちに池の端に諏坊神社を祭り、毎年七月になるといかだを組み池に浮かべ、神楽を奉納して池の主を慰めることにしたんだって」
よくもまぁ、本などを見ずにスラスラと説明が出来るものである。うろ覚えではなく、完全に覚えていないとこれだけ綺麗に説明は出来ないだろう。
「この話にするとなると、主要キャラは二人でいいんだけど、問題は村人役だね。村人役には大して意味がなくて、いなくても何とかなりそうだけど、一人もいないとちょっと味気ないよね」
とるんが、肯定的な態度で問題を指摘した後、チョイ役でも私は出ないよと、言われる前に断った。
確かに、二人だけでは難しい芝居かもしれない。舞が一緒にやってくれれば話は別なのだが。
他にも、問題は続出した。青々とした麦畑が大地に変わってしまうシーンは、セットを替えなくてはならない。その際の人員も問題になってしまう。
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