この二人の間で朱理の事が話され、劇に誘うと意見が纏まったらしい。
「そんなの、絶対駄目だよ。カオルだって知ってるでしょ? 朱理がどれだけ人見知りをするか」
「確かに、朱理は人見知りが激しいと思うけど、たった一日で私と親友と呼べるほどの仲になったんだよ。少しでも心に踏み込んで付き合えば、心を開くのも早いはず」
「私の時は、カーテンを開くのにだって時間が掛かった。誰に対してもすぐに心を開くんじゃなくて、カオルに対してだから心を開くのが早かったんだよ」
「そうかな?」
横から、るんが口を挟むように呟く。
「円佳は、朱理さんの心に踏み込んで、今まで付き合ってきたの?」
何も、言えなかった。
朱理を傷つけないように、多少距離を置いて接してきたし、それが間違ってるとも思っていない。人間、誰にだって触れられたくない箇所がある。それに触れてしまうのは野暮だと思う。
「円佳は、朱理さんに対して心を開いて接しれた?」
「当たり前じゃない」
「自分を取り繕わずに、接しれたの?」
「そりゃ、多少は自分を作ってたけど…でも、誰にだってそれは言えるんじゃない? るんと会ってる時だって、自分を作ってる。そんな自分を全部ひっくるめて、私が構成されてるんだから」
「じゃあ、取り繕ってもいい。取り繕ってもいいから、朱理さんに対して完全に心を開けた?」
「当たり前じゃない」
「朱理さんに嫌われてもいいから、朱理さんに幸せになって欲しいって思えた?」
るんの問いが終わると同時に予鈴が鳴り、返事をする間が奪われた。
この予鈴は、私にとって救いだった。正直、返事に困っていたのだ。
各々が、慌ただしく自分の席に移動する。そんな中るんは、最後にこう残して自分の関に移動した。
「心を開いて接しないと、相手も心を開いてくれないよ」
◇
休み時間になるたび私達はカオルの机に集まり、脚本が書かれたノートを見ながら劇の打ち合わせをした。
打ち合わせの最中、誰も今朝の話題に触れようとしなかったが、打ち合わせされている脚本のキャストは四人になっている。るんは役者として出演しない約束になっているので、四人目のキャストが朱理を指しているのは容易に察しがついた。
四人目のキャストは、物語の進行にはあまり必要のないちょい役なので、もしも四人目のキャストが不在になっても劇の進行に影響はない。
どのような展開になっても大事にならないように配慮されている辺り、さすがカオルだなと感心してしまう。
三時間目になり、体育の授業が訪れた。今日は六十メートル走や高飛びの記録を計るので、運動神経の良い生徒は張り切っている。舞もその中の一人である。
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