それに、突然目が見えなくなると言われても、実感が沸かない。こんな事態になるなんて想像もしていなかったので、失明する恐怖がピンとこない。
「ごめんなさい、私のせいで」
声を震わせ、朱理が謝る。おそらく、朱理は止め処なく涙を流しているのだろう。
おそらくここは、学校の保健室ではなく普通の病院だ。普通の病院に朱理が他のメンバーといることに、私は失明する可能性を聞いた時より驚きを覚えていた。
「朱理のせいじゃないよ」
「でも」
「悪いのは、私をはねた運転手。私は信号を守って、相手は信号無視をしたんだから」
朱理は、何も返事をしなかった。
どう返事をすれば良いのか分からないのだろう。
「それより、朱理がここにいてくれるのが嬉しいんだ」
「朱理の家の前で、朱理が帰ってくるのを待ってたら、家から朱理が出てきて、円佳が事故にあったかもって血相を変えて出てきたんだ」
この声は、舞だ。
「そうなんだ…居留守使ってたの、ばれちゃったね」
「そんなの、どうでもいいよ」
なんとか、場を盛り上げようと明るく話してみるが、私の明るさは健気に見えるのか、寧ろ悲しみを誘っている感じがした。
確かに、失明するのは悲しいけれど、みんなの前では明るく、いつもどおりでいたい。
悲しみ落ち込むのは、一人になったときでいいのだから。
「あっ、円佳が気がつきました」
礼儀正しいるんの声の後に、複数の足音が私に近付いてくる。
「体、痛くない?」
お母さんの声だった。
「動かすと、少し痛いかな。お父さんもいるの?」
「あぁ、近くにいる」
もう一つの足音は、お父さんのものだったようだ。今まで近くにいなかったのは、先生と話でもしていたからだろうか?
「円佳…お前の目は」
「うん…分かってる」
やはり、目の話題になると雰囲気が重くなる。
「あの、私達そろそろ帰りますね」
カオルの声が聞こえ、お母さんが四人にお礼を言う。
時間は分からないけれど、失明の恐れが高いほどの怪我をし意識を失っていた。
きっと、かなりの時間が経過しているのだろう。
「明日も来るから、何か持ってきて欲しいものとかある?」
るんがそう言ってくれたので、音楽を聴きたいとリクエストすると、音楽プレーヤーに何曲か入れて持ってきてくれると言ってくれた。
「舞、朱理を送ってあげてね」
「分かってる」
「明日も来るね」
か細く、朱理の声が聞こえる。
「うん、楽しみにしてる」
四人の足音が、遠ざかっていく。今だから病室を出て行く四人の姿を想像できるけれど、五年後、いや、一年後は想像できるだろうか?
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