目的地である駅に着くと、カオルが声をかけてくれた。
「大分、外出に慣れたみたいだね」
「まぁね、少しは…朱理もいるの?」
「うん…」
控えめな朱理の声が聞こえる。
二人とは電話で話しているので久しぶりな感覚はないが、電話越しではない生の声を聞くのは久しぶりなので、声を聞くだけで少し頬が緩んだ。
「仕事の方はどう?」
「カオルがいてくれれば、なんとか」
「朱理って、仕事自体はかなり出来るんだよ。以外に体力があるし、器用だし」
「へー そうなんだ」
二人は今、同じ工場でバイトをしている。
カオルは就職組みだったが社員などを目指さす、家から通える距離の工場でバイトをすると決めていた。
成績が優秀で社交性もあるカオルだから、もっと高みを望めたと思うし、実際、先生達にもカオルの決断はもったいないと反対されたらしい。
でも、カオルの意志は固かった。カオルは父の傍にいて、一緒に暮らしながら生活の力になるのを望んだのだ。
朱理は、卒業後しばらくニート状態になり、家にいづらいと電話で嘆いていたが、しばらくしてからカオルが紹介する形で同じ工場に働くようになった。
カオルが勤める工場のバイトが、個人の都合で立て続けに辞めていき、工場は壊滅的に人手不足に陥った。その危機をカオルはチャンスだと思い、条件が合えばすぐにでも働いてくれる子がいると工場長に推薦したらしい。
その条件とは、自分の傍で働かせること。それは馴れ合いではなく精神面のもろさをカバーする為だと工場長に説得し、研修として朱理は工場に勤めるようになった。
「うちの工場って、若い人って少ないんだ。私達の次に若いのが三十五歳。だからかな、すごく可愛がってもらってる」
朱理が、嬉しそうに報告する。
職場で手が触れ合ったりしてるのだろうか? 接触がないからうまくいってるのだろうか?
その辺りの疑問は胸に止め、話を続ける。
「まぁ、私も可愛がってもらってるけど、朱理の方が評判いいかな」
「そうかな?」
「だって、どう考えたって可愛がり方の質が違うからね。私に対しては、若干息子を可愛がるノリだよ」
それは、見なくてもなんとなく分かった。朱理は大人しく内向的で、見た目だけだと整った顔立ちから取っ付きにくそうだが、接してみると守ってあげたくなる可愛らしさがある。
対照的にカオルは、しっかり物でサバサバした性格だ。下ネタを言っても嫌な顔をしないし、喜怒哀楽のうち喜と楽の感情を素直に表へ出せる。
可愛がり守られるのが朱理で、馬鹿げた話などをして退屈な時間を潰す相手はカオル。そんな感じで扱われているのだろう。
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