外に出ると、風や空気の感じから天気が持ちそうだなとなんとなく分かった。目が見えなくなってから様々な感覚が敏感になったらしく、正確に予想できるわけではないが、なんとなく天気の流れが分かるようになってきた。
まだ外を歩き慣れていない私は、ゆっくり、ゆっくりと杖を頼りに歩を進めていく。
目的地までに、渡らないといけない道路は二つ。その内の一つは歩道橋が掛かっているので、難所は一つである。
外を歩くとき、私は極力目が見えない人を演じながら歩いた。実際に目が見えないので演じるという表現はおかしいけれど、慣れてきてある程度自然に歩けるようになってきても、わたしは意識的に危なっかしく歩くように心がけた。
誰が観ても分かるほど目が見えないのをアピールすれば、相手側のほうが気を遣うので安全性が高くなる。この作戦を取っていると、親切な人が手を差し伸べてくれる時があり、人見知りをする私にとってはそれが多少苦痛に感じる時もあるけれど、その苦痛さを差し引いても私にとってはこの安全な策が安心して外を歩く一番の方法なのだ。
一番の難所である横断歩道に辿り着いた。
車が行き交っている。
どうやら、信号は赤のようだ。
このあたりでも音の信号機が増えてきたけれど、この横断歩道の信号機は音が出ない。目が見えている時は何も感じなかったのに、光を失ってからは『どうして音が出ないんだ』と腹を立ててしまうのだから、自分勝手なものである。
車の流れが止まった。
青になったな。
曲がってくる車もあるので、軽く手を上げながら横断歩道を渡る。子供みたいに手を上げるのはさすがに恥ずかしいので、手を上げているような、曲がってくる車を制止しているような微妙な高さに手を上げて横断歩道を渡る。
難所を通過した私は、後ろから来る人に追い抜かれても気にせずに、自分のペースで歩を進めていく。
転ばないように気をつけながら進み、歩道橋の階段は右足を乗せた後に同じ段にm左足を乗せて、一段ずつ上っていく。端から見るとじれったく見えるだろうが、これが今の自分に出切る精一杯のペースなのだ。
その内に私は外出にも慣れて、自然と歩くスピードなどが速くなっていくだろう。その時は速くなった自分のペースで進めばいい。
無理をして自分のペースを崩し危険な目にあっては馬鹿らしい。例え時間がギリギリで遅刻しそうでも、自分のペースを守り通す。これが、私が生きていく上で一番大切にしている心構えである。
急いで痛い目に遭うより、遅刻して怒られる方が数段マシだ。
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