一礼して、塚本先生に背を向けた。
そのまま、保健室を出るはずだった。
「森永さん?」
足が震えて、地面から離れない。
上半身もいうことを利かず、保健室のドアと向き合う形で体が止まってしまった。
「大丈夫? 森永さん」
塚本先生が私の肩に手を当てると、背筋に電流が走ったような感覚が広がり、無意識の内にくすぐたっがるように体を屈めていた。
先ほどまで下半身だけだったが震えが、上半身にまで達している。
気分が悪くなり嘔吐をしそうになったが、朝食を抜いてきたからか吐くまでは行かず、床に少しよだれが落ちた。
「少し、ベッドで休みなさい」
胃液がこみ上げてくる苦しさからか、塚本先生の優しい言葉からか、私の頬には少量の涙が流れていた。
なんだ…涙が流れても楽にならないじゃないか。
「駄目なんです」
「保健の先生である私が薦めているのだから、駄目ってことはないでしょ」
「私が、こんなじゃ駄目なんです。私がこんなだったら、朱理が責任を感じてしまう。私はもっと平常心で、昨日のことなんて気にしていない素振りを見せないといけないんです」
そう分かっていても、思うように体が動かなかった。脳と体を結んでいる神経などが全て遮断されているように、思考と行動が合わさらない。
「気持ちは分かるけど、ベッドで休みなさい。昨日のこととは関係なく、体調を崩して休んでるって言えばいいでしょ」
ベッドで休むと決まると急に足が軽くなり、思いのまま行動が取れた。
体の自由が利く私は、朱理がいつも使っているベッドの一つ隣に移動する。
保健室で休まないとならないほどの怪我や病気をしたことがない私は、保健室のベッドに転がるのは初めてだった。
カーテンだけで作られた、頼りない自分だけのスペース。この中で朱理は一人で時を過ごしているのだなと思うと、心が痛くなる。
白く薄いカーテンが光に当たり、様々な影を作り出す。実際に動いていない物の影も、風で揺らめくカーテンの影響からか動いて見え幻想的だ。
ベッドに転がり、スクリーン代わりになっているカーテンを見つめていると、まぶたが重たくなってきた。
そうだ、昨日は布団に入っても中々寝付けず、ほとんど寝ていないのだ。
襲ってくる睡魔に逆らわず、寧ろ歓迎し受け入れまぶたを閉じる。まぶたを閉じ安心したのか、睡魔は容赦なく私を襲い、五分と立たないうちに眠りに落ちていた。
◇
目を覚ましても、時間が分からなかった。近くには時計が見当たらず、明るさで時間を計れなかった。
時間を確認しようと携帯を取り出したが、タイミングが悪く充電が切れていて、ディスプレイは私の顔を映す出来の悪い鏡の役割しかなさない。
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