奈津子は、自殺未遂をしていた。
そんな暗く話したくないような過去も、あの時は若かったからと明るい口調を変えずに話してくれる。
語られる昔の奈津子は、まるで今の自分のようだった。自分ほど不幸な人間はいないと、悲劇のヒロインを気取ってしまう。みんなが心配してくれるので、いい気になっていたのかもしれない。
奈津子の紹介で色々な人と話した。
今まで、あまり接する機会のなかった年代の人とも触れ合う。目が見えないので、第一印象で相手を避けることはなく、寧ろ、同じ障害を持っている仲間だと、好意をもって接しられる。
みんな、良い人達だった。一度失意のどん底に落とされて、這い上がって来た強さがある。
私も、いつかこんな大きな人間になれるかもしれない。
何一つ希望のなかった人生に、一筋の光が見えたような気がした。
◇
天気予報は、降水確率三十パーセントと微妙な予報を出していた。今は、窓から入る日差しを感じるので晴れているのだろう。
時計のボタンを押す。時刻は午後十二時二十六分。約束の時間まで、約一時間ある。
CDラックの元に向かい、記憶を頼りにCDを選ぶ。確か、このCDで合っているはずだ。
CDをセットして、再生を押す。スピーカーからは質の悪いノイズ交じりの音が流れてくる。
文化祭で演じた劇の音声が流れる。
麻衣の友達が録音して、CDに焼いてくれた私達の思い出。るんのナレーションがあるおかげで、CDドラマのように内容を把握しながら聞いていられる。
まぁ、ナレーションがなくても内容は完全に覚えているけれど、内容がどうよりも、このCDを聞くとみんなの声が聞けるので元気付けられる。
元気付けられるのだけれど、ちょっと恥ずかしかったりする。
そろそろだ。
皆の台詞よりもかなりの大声で、私が叫び演じる声が流れる。
ただでさえ大声を出したのにプラスして、この音声は私の近くで録音をしていたらしいので、私が演じた声だけは音量の度合いが違い、何も知らないで聞いている人は突然の大声に驚き腰を抜かすかもしれない。
私はもう慣れているので、私の台詞のところだけは音量をかなり下げ、近所迷惑にならないように工夫している。
一人で聞いていても恥ずかしい私の台詞が終わり、劇が終わるとCDを止めた。上演後に行なわれた皆の挨拶も収録されているが、これは自分の台詞よりも聞いていて恥ずかしくなるので、聞く機会は滅多にない。
CDが終わったということは、後三十分ぐらいか。
家を出るのに丁度いい時間になったので、私は愛用の杖を持ち外に出た。
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