「それって、なんか嬉しい…あっ、ごめんなさい。無神経でした」
「ううん、気にしてないよ。それより、私も嬉しい。リストが少し素性を教えてくれたから」
「なんとなく、歳ぐらい知られたっていいかなって思ったんです。でも、それ以上は」
その、なんとなくが大切なんだよと言いそうになって、円佳は言葉を止める。言ってしまったら、そのなんとなくは無意識の内に生まれなくなってしまう気がした。
また、リストの中で『なんとなく、これぐらい教えてもいいかな』と思った時、リストのことを分かっていけば良い。焦りは禁物だ。
「うん、知りたいけど、詮索はしないよ。話したくなったら話せばいいし、一生話さなくてもいい。友達同士なんだから、本名だとか、どんな容姿をしてるかとかは関係ないよ」
リストは、返事が出来なかった。
わがままな言い分を聞き入れられた喜びと、聞き入れてくれる円佳の優しさに包まれ、涙が溢れ言葉にならない。
「雨、降ってきたね」
ポツポツと小雨が降り、露出されている肌の部分に当たる。
円佳は持っていたバックから折り畳みの傘を取り出し、リストと2人で雨を凌いだ。
折り畳みの傘は通常の傘より小さい為、二人は寄り添っていた体を更に寄り添わせ雨を凌ぎ、雨がやむまで一緒にいたのでいつもより長い時間を共にした。
♢
夕方、円佳と別れたリストは、寄り道せずに家へ戻り、自室にこもった。
雨戸の閉まった室内は、天気や時間と関係なく暗闇に包まれている。その暗闇を人工的な力で光に包ませる為に電気をつける。
椅子替わりになっているベッドに腰を下ろしたリストは、ペットボトルに手を伸ばした。
ペットボトルの中は思ったよりも減っていて、持ち上げた手が勢いよく振り上げられ苦笑してしまう。
思ったよりも少なくなっていたジュースを一気に飲み干す。
温かくも冷たくもない、微妙に温いジュースはお世辞にも美味しいとは言えなかったが、喉を潤すのには充分だった。
ジュースを飲み干した勢いのまま立ち上がり、キッチンから新しいジュースを補充する。
新しく持ってきた冷えているジュースを一口飲み、ベッドに身を預けるように仰向けの姿勢で転がる。
天井だけが見える視界を右腕で遮り、目を瞑る。
目を瞑り思い出されるのは、円佳のことばかりだった。
「友達か…」
そう、口に出してみる。
「友達」
もう一度、確認するように言葉にした。
「私と円佳さんは、友達」
何度も、確かめるように『友達』と呟き、円佳との繋がりを実感する。
十数分、その行為を続けていると、喉に渇きを覚えた。
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