ラジオのテーマは『あなたは何の秋?』というテーマだった。芸術の秋や、食欲の秋。そういった定番のものだけではなく、自分独自の秋を募集していた。
コンピュータの思考時間中に、もし自分がこのコーナーにメールを送るとしたら、なんと書くだろう? と考え、リストカットの秋と書いてメールを送っても、採用されないだろうなと、手首を見ながらリストはボッーと考える。
気がつくと、コンピュータは次の一手を打っており、自分の持ち時間がかなり減っていた。テーブルゲームに音は必要ないと判断したが、今回ばかりは失敗だった。
コンピュータが打ってきた一手は、かなり良い一手だった。リストの予想にはなかった効果的な一手。
形成が悪くなったリストは、携帯ゲーム機の画面を食い入るように見つめ、何手先も考えた。
ラジオの音声が耳に入ってくるけれど、頭には入らず聞き流している。
無駄に制限時間を使ってしまったが、初めの内は早打ちでゲームを展開していたので、それなりに時間に余裕があった。不用意な一手を打たないように、慎重に次の一手を考える。
考えに考え抜き一手を打つと、コンピュータにとってまずい一手だったらしく、またコンピュータが思考中になってしまった。
コンピュータの思考時間が長いのは、自分の一手が良い証拠である。
満足げに画面を見つめると、画面上にうっすら自分の顔が写っているのに気がついた。オセロの盤上の上にうっすらと写る、腫れ上がった醜い顔。
顔の上の部分。鼻の上の辺りからおでこまでは傷跡や腫れはない。問題は頬である。頬は口の中に何かを詰めているように腫れ上がり、骨格すら見受けられなかった。
リストは衝動的にゲームの電源を切り、仰向けに転がった。
もう、ゲームの画面を見たくなかった。もう、反射するものを見たくない。鏡とか、窓とか。
白い天上を見つめていると、天上にすら自分の見たくない顔が写ってしまうような錯覚に陥り、右腕を目の上に置き視界を遮る。
どうしようもなく、情けない気持ちになった。朝からコンピュータとゲームをして躍起になっている自分の姿を想像すると、滑稽で、情けなくなる。
ネットゲームで、戦う先に実物の人間がいるのならまだ良い。しかし、自分が戦っているのは人間が組み込んだプログラムなだけだ。それは決して人間とは言えない。
ラジオからは、出会いの秋だとか、旅立ちの秋と、前向きなメールばかりが読まれている。
きっと、前向きなメールばかりを選びDJが読んでいるのだろうけど、リストにとっては、自分以外の人達が皆、前向きな人や幸せな人ばかりに思えた。
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