膝下だけ投げ出す形でベッドに転がり、足をばたつかせ気を紛らわす。一部分だけでも体を動かしていると、溜まっていたストレスが少しずつ緩和されていく。
円佳の心は、不安定に揺れていた。
歩道橋では明るく、楽しくリストと今を楽しみ、帰ってくると、電話でカオルとリストの今後に就いてシビアな話をしなくてはならない。
気持ちの使い分けが器用に出来るほど円佳は強くも柔軟でもなく、軽いパニック状態に陥ることもあった。
足をばたつかせている反動を利用して勢いよく立ち上がると、円佳はテーブルに置いた携帯を手に取った。
ボタンを押し間違えないように慎重に操作し、本条朱理に電話をかける。
しばらくのコール音が流れ、朱理の声が聞こえる。
外にいるのではなく室内にいるらしく、雑踏の音は聞こえない。
『円佳から電話をかけてくるなんて、珍しいね。何かあったの?』
円佳を慕う朱理は嬉しそうに、声を弾ませる。
「いや、何でもいいから喋りたいと思って。声を出したいって言うのかな? パパは出張でいないし、ママは風邪で寝込んでるし」
『大変だね。今からそっちに行こうか?』
「ううん、そんなに心配しなくても大丈夫。子供じゃないから」
『でも…』
「明日も仕事でしょ。休めるときに休みなさい」
『分かった、そうする』
「うん、良い子、良い子」
『私だって、子供じゃないんだから』
反論された円佳は、笑って朱理の方が大人っぽいもんねと、幼児体型を卑下した。
「そういえば、久しぶりにこの部屋で笑ったな。端から見たら、部屋の中にいる私って常に仏頂面だったと思う」
『苦労してるんだね。本当に大丈夫?』
「私は大丈夫なんだけど、リストがね…リストのこと、知ってる?」
『知ってるよ。円佳とだって、何回か話してるじゃん』
「どこまで知ってるかなって」
『あぁ…』
朱理は言葉を濁してから、言葉にするのさえ辛そうに続ける。
『虐待を受けてる可能性が高いんでしょ?』
「そうなの。それが分かった時カオルは、クソッ! 無力だって悲しんでたんだけど、時間が過ぎれば過ぎるほど、何も出来ない無力さが募っていくんだ」
『円佳は、無力なんかじゃないよ。円佳がいなかったら、リストさんは自殺をして死んでいたかもしれない。いや、歩道橋から車が通る道路に飛び込むんだから、きっと死んでたよ。
今、リストさんが生きているのは円佳のおかげなんだから、自分を責めないでいいんじゃないかな』
「リストが辛い目に遭ってるって知ってるのに、知らない振りをして明るく話すのって、結構辛いんだよ。
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