肉体よりも、精神に疲れを感じながら家に戻ると、円佳は疲れた声色で『ただいま』と告げた。
「随分と帰りが遅かったけど、どこまで行ってたの?」
「カオル! どうしたの?」
思いもよらないカオルの登場に、円佳は声を張り上げ問いかける。
「ちょっと話したい事があってね。ちなみに、今日は朱理もいるよ」
「逢うのは、久しぶり」
朱理は、円佳には見えないのに、つい軽く手を挙げて挨拶をする。大人びた声をしているが、口調が少し子供ぽい朱理の喋り方が円佳は好きだった。
「カオル、何か企んでる?」
「企んでなんかないよ。作戦会議を開こうと思っただけ」
「その作戦が、企みな気がするんだけど」
「固いことは言いっこナシ。さぁ、部屋に行きましょ」
相変わらず、円佳の家にもかかわらずカオルが場を仕切り、円佳は渋々部屋に移動した。
部屋に入ると、カオルはデスクチェアに腰を下ろし、円佳と朱理は並ぶようにして、ベッドに腰をかけた。
「早速、作戦会議を開きたいと思うけど、その前に一つだけ確認させて」
一度言葉を切り、少し間を置いてからカオルが言葉を続ける。
「円佳は、リスト姫の秘密を知りたい?」
円佳は、突拍子のないカオルの問いに戸惑いながら頷いた。
「じゃあ、その秘密は、リスト姫にとって円佳に知られたくない秘密だとしても?」
「それなら、知りたくない」
円佳は、迷わず即答した。
「どうして?」
「どうしてって、だって、知られたくない秘密なら、聞かない方が良いに決まってるじゃん」
「知った方が良いか、知らない方が良いかを聞いてるんじゃなくて、知りたいか、知りたくないかを聞いてるの。リスト姫の気持ちとか想いは一切関係なしで、円佳はリスト姫の秘密を知りたいかどうかを」
「なら、知りたい」
と答えるものの、円佳の顔には、納得していないと書いてある。
「私はね、円佳にリスト姫の秘密知ってもらいたいと思ってるの。でも、円佳はその秘密を聞こうとしないとも分かってる。だから、こんな遠回しな言い方をしてるんだ」
「待って、今の例え話は、リストの気持ちとかを踏まえないとしたらの話でしょ。リストの気持ちとかを考えていいって言うなら、私はリストの秘密を知りたいとは思わない」
「その秘密が、リスト姫の怪我に関するものだとしても?」
カオルの神妙な声を聞き、円佳の表情は凍りついた。
「私、知っちゃったんだ。リスト姫がどうしてあんなに傷だらけなのかを」
「どうして?」
「リスト姫はお母さんに…」
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