足を踏み出して

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#100

公開日時: 2022年1月30日(日) 22:50
文字数:1,001

 肉体よりも、精神に疲れを感じながら家に戻ると、円佳は疲れた声色で『ただいま』と告げた。


「随分と帰りが遅かったけど、どこまで行ってたの?」


「カオル! どうしたの?」


 思いもよらないカオルの登場に、円佳は声を張り上げ問いかける。


「ちょっと話したい事があってね。ちなみに、今日は朱理もいるよ」


「逢うのは、久しぶり」


 朱理は、円佳には見えないのに、つい軽く手を挙げて挨拶をする。大人びた声をしているが、口調が少し子供ぽい朱理の喋り方が円佳は好きだった。


「カオル、何か企んでる?」


「企んでなんかないよ。作戦会議を開こうと思っただけ」


「その作戦が、企みな気がするんだけど」


「固いことは言いっこナシ。さぁ、部屋に行きましょ」


 相変わらず、円佳の家にもかかわらずカオルが場を仕切り、円佳は渋々部屋に移動した。


 部屋に入ると、カオルはデスクチェアに腰を下ろし、円佳と朱理は並ぶようにして、ベッドに腰をかけた。


「早速、作戦会議を開きたいと思うけど、その前に一つだけ確認させて」


 一度言葉を切り、少し間を置いてからカオルが言葉を続ける。


「円佳は、リスト姫の秘密を知りたい?」


 円佳は、突拍子のないカオルの問いに戸惑いながら頷いた。


「じゃあ、その秘密は、リスト姫にとって円佳に知られたくない秘密だとしても?」


「それなら、知りたくない」


 円佳は、迷わず即答した。


「どうして?」


「どうしてって、だって、知られたくない秘密なら、聞かない方が良いに決まってるじゃん」


「知った方が良いか、知らない方が良いかを聞いてるんじゃなくて、知りたいか、知りたくないかを聞いてるの。リスト姫の気持ちとか想いは一切関係なしで、円佳はリスト姫の秘密を知りたいかどうかを」


「なら、知りたい」


 と答えるものの、円佳の顔には、納得していないと書いてある。


「私はね、円佳にリスト姫の秘密知ってもらいたいと思ってるの。でも、円佳はその秘密を聞こうとしないとも分かってる。だから、こんな遠回しな言い方をしてるんだ」


「待って、今の例え話は、リストの気持ちとかを踏まえないとしたらの話でしょ。リストの気持ちとかを考えていいって言うなら、私はリストの秘密を知りたいとは思わない」


「その秘密が、リスト姫の怪我に関するものだとしても?」


 カオルの神妙な声を聞き、円佳の表情は凍りついた。


「私、知っちゃったんだ。リスト姫がどうしてあんなに傷だらけなのかを」


「どうして?」


「リスト姫はお母さんに…」

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