リストは、微笑みながら『ご飯よそってくるね』とキッチンに移動した。
二人分のご飯をよそる。母は相当お腹が空いているようなので、いつもより多くよそった。
「おまちどうさま」
「待ってました」
しっかりと髪を拭き終えた母が、手を叩き喜んだ。その態度を見て、リストは再び微笑んだ。
そんなリストを見て、母も微笑む。
晩御飯は、和やかに進んでいった。テレビを点けているが、テレビが気にならないほど会話が弾む。
「ねぇ、何かいいことでもあった?」
母が、ご飯を頬張りながら問いかける。
「えっ? どうして?」
突然の問いかけに、リストは箸を止め驚いた。
「今日は、いつも以上にニコニコしてるから」
「私、そんなに笑ってる?」
「今日は、笑ってる時間の方が多いよ。よく微笑むけど、笑ってる姿を見たのは、もう相当前になるから、笑顔が見れるだけで嬉しい」
そう言われ、リストは照れからにやけてしまう。
喜びと気恥ずかしさが混じった、恥じらいのようなにやけ顔。
「あのね、今日、友達が出来たの」
「本当! どんな子? どんな子?」
母は、文字通り身を乗り出し、興奮気味に追求する。
「二十歳の女性で、森永円佳さんっていうの。円佳さんは失明してるんだけど悲観的になってなくて、凄く明るくて強い人なんだ」
リストの話す他人の話を母は万感な思いで聞き、リストが話しやすいように聞き役に徹した。
円佳の話が出た後も、和やかな雰囲気で食事が進んでいく。その姿は、幸せな母子家庭そのものだった。
九月十八日
円佳が歩道橋を後にしたのは、いつもより三十分遅れだった。
雨が上がるまで、歩道橋の上でリストと雨を凌いでいたら、帰るのが遅くなってしまった。
いつもより帰りが遅くなってしまうので、心配をかけないために家への連絡をしたが、家から歩道橋までの距離は十五分程度。リストと別れてすぐに連絡を入れても、帰る時間より十五分過ぎてしまっていた。
帰りが遅くなってしまったのを報告する電話を入れると、母、真弓は心の底から安堵の声を漏らしてくれた。
そこまでは良かったのだが、しばらくして不安が消え去ると、真弓の声から安堵の優しさが消え、こっ酷く叱られてしまった。
連絡が遅れたことを何度も謝り、真弓の怒りを静めていく。
ごめんなさい。
今度から気をつける。
何度この二つの言葉を使用したか分からないほど、同じやり取りが繰り返された。
何とかなだめて電話を切った時には、家が目の前に迫っていた。
まだ、ママは怒ってるかな?
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