現実は残酷だ。
毎日、憂鬱な朝を迎えているが、今日は特別に憂鬱だった。
今日は、文化祭当日なのである。
私達はこの日の為にドラマのように青春ぽく劇に打ち込み、一つの物を完成させようとしていた。
文化祭が終わると、私達が努力し完成に近づけていた劇は完全に意味のないものになってしまう。
だからと言って、いまさら劇に出たいとも思わない。いや、出たいけれど、この状態では演じられるはずがない。
出たいけれど、出れるはずがない。そんな未練を象徴するように私は、自分の台詞を口ずさんでは、自身に憤りを感じてしまう。
今頃みんなは、劇の準備をしているのだろうか? それとも、劇のことは綺麗さっぱり忘れ、クラスの催し物に力を尽くしているのだろうか?
どっちにしても、みんな楽しい気分ですごせてはいないだろう。
結局、私は文化祭当日でもいつもと変わらず、何もせずに寝転がったまま時間だけを経過させていた。
長い長い午前を終えると、次は長い午後の始まり。
今日は文化祭で忙しいからか、るんも遊びに来れないと言っていた。
るんが遊びに来てくれなかったら、私の一日は食事とお風呂以外に何もない。お母さんやお父さんと多少話をするが、失明してからは会話と呼べるほど長い話をしていない。
失明し失意のどん底に落ちている私に対し、優しい言葉をかければいいのか、舞のように現実を見据えた言葉をかければいいのか、迷っているのかもしれない。
この会話のない距離感が、私には助かっていた。光を失った目に関して話を触れられたら、私は思わず弱音をはいてしまうだろう。
両親に弱音をはき心配を掛けたくないと思っていても、その場になったら弱音をはいてしまう気がしてならないのだ。
何もせずに寝転がり続けていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。
誰だろうと聞き耳を立てると、玄関のドアを開けたのはお父さんだった。
お父さんが、こんなに早く帰ってくるなんて珍しい。どうしたのだろう?
時計のボタンを押すと、時計が午後五時二十八分と現在の時刻を告げた。この時計は失明してから両親が買ってくれたもので、大変重宝している。
それから二十分ほど経つと、階段を上がってくる音が聞こえ、気持ち程度のノックの後『円佳、入るわよ』とお母さんが私の返事を待たずにドアを開けた。
「どうしたの?」
見えないけれど、体を起こしドアの方を向いて問いかける。
「出かけましょう」
「えっ?」
「大丈夫、外を歩くんじゃなくて、車だから。少し外を歩くことになるけど、私とパパが手を繋いでるから、怖がることないわ」
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