るんに昨日の経過をカオルが話した後、私の知っている朱理のことを二人に話した。
といっても、私も朱理について詳しく知っているわけではなく、カオルを傷つけた後に怯えていた朱理の姿と、将来に期待していないと言った朱理の発言を説明するしか出来ない。
朱理を傷つけないように、プライベートや過去を詮索しないように付き合ってきたので、大した情報がないのだ。
「誰よりも、痛みに敏感なんだろうね」
私の知る限りの情報を伝え終わると、るんがポツリと呟いた。ハッキリとした言葉ではないけれど、るんの言葉からは朱理を軽蔑する感情は感じられず、友好的に感じられた。
「この図書館に来るの、小学校の夏休み以来だ」
久しぶりに見る図書館を前にして、私が感想を述べると、私もそれぐらいとるんが言った。
市民図書館は、何年も経っているのに内装がまったく変わっていなかった。読書感想文のために本を借りに来た以来だけれど、パッと見は少しも変わっていない。
変わったところと言えば、本が変わったぐらいだろう。
どんな本があったかなんて、詳しく覚えてないけど。
舞は机につき、ノートを広げていた。瞬き一つせずにシャーペンを走らせる姿は、異様なオーラを醸し出していて、声をかけるのが躊躇われる。
「舞、勉強は捗ってる?」
怖気づいてる私と違い、るんは明るく舞いの横に腰を下ろす。
続いて、私とカオルも椅子に腰を下ろした。カオルは舞の向かいで、私はカオルの隣である。
「どうしたの? みんな揃って」
舞は、開いたノートをそのままにして顔を上げた。
「舞の嫌がる話をしようと思って、多勢に無勢で乗り込んできたの。幸い、ここは図書館だから騒げないし」
依然明るく、るんが話を切り出した。私には出来ない、うまい話の切り出し方である。
最初に嫌な話をすると言っておけば、何かと話しやすくなるし、思ったより嫌な話でなかったら、舞の機嫌も良くなる可能性がある。
図書館だから騒ぐなと釘も刺してある。
「さぁ、どうぞ」
話を切り出しておいて、いざ話がはじまるという瞬間になると、るんは話し役を私とカオルにパスをした。
「ちょっと、この展開からすると、るんが話すんじゃないの?」
「だって、朱理さんについては円佳とカオルの方が詳しいじゃん。私は、カオルが襲われた時に立ち会っただけで、一回…いや、一瞬しか会ってない。言葉だって交わしてないんだから」
と言われると、抗議を撤回するしかない。るんの言う事はもっともで、るんと朱理は会ったと言えるほど顔を合わせていない。朱理からすると、るんの存在自体知らないかもしれない。
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