自然以外に何もない、自分以外に誰一人いない地球に放り出され、さぁ、行動してみろと言われているように、高校を卒業した後、何をすればいいのか分からない。
どうすれば、何もない地球を豊に出来るのか、そんなの分かるはずがない。
「私は、早く卒業したい」
意外にも、朱理がそういった。
「不安はないの?」
「今以上に、不安が募ることはないよ」
私が傍にいる今よりも、私が傍にいない卒業後の方が朱理は不安を感じないのだろうか? それとも、朱理の描く卒業後のビジョンに、私は映っているのだろうか?
「私は、人を傷つけてしまう危険な物でしょ。でも、人を傷つけるナイフだって、使い方によっては人を喜ばせられる。そんなナイフのように、私をうまく扱ってくれる人が社会に出たらいればいいなって」
励ましの言葉が、何も思い浮かばなかった。朱理はそんな危険な物ではないと強く思っているが、その思いを口にしてしまったら、朱理の描くビジョンを否定し、生きる励みを壊してしまう気がする。
「操られて、朱理はどうするの?」
「生きるの」
「生きるだけなの?」
朱理は、迷いなくうなずく。
「そんな生き方で、楽しい?」
「私は、楽しくなくてもいい。辛くたっていい。ただ、生きていたい。生きる以外に何も望まない。将来に期待をしてないから」
そう生きなくてはならないんだと言い聞かせるように、かたくなに言葉を並べ、最後に一呼吸間を置いてからか細い声で『生きていたいんじゃなくて、死にたくないだけかもしれない』と言葉をこぼした。
◇
「なに、ボッーとしてるの?」
自分の席に着き、何もしないで時間を過ごしていると、カオルが声をかけてきた。近くにはるんもいる。
「ちょっと、考え事」
授業前に朱理と会い、あんな会話をしてしまった為、夏休み明けの初日は終始上の空で、授業内容さえ頭に入らない状態だった。
「昨日も言ってたけど、卒業の事?」
「それもあるけど、今は違うことで悩んでた。ところで、舞は一緒じゃないの?」
「舞は、図書室で勉強中。帰りに遊びに行こうって誘っても、そんな暇はないって断られた」
「そっか、頑張ってるんだね」
朱理は、諦めに近い感情だけれど、卒業後の事を考えている。
カオルは長野に残り就職し、るんと舞は目的は違うが、東京の大学を目指している。
私だけが、進路を決めていない。何処の大学に行きたいのか…そもそも、大学に行くのか、就職コースを選ぶのかさえ決めていない。
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