朱理が落ちついたのを見計らって、キスをやめる。
顔を離すと朱理は、赤らんでいる顔を隠すようにそっぽを向いた。
「無茶苦茶だよ。舌を噛み切られたら、どうするつもりだったの?」
「そこまで考えてなかった」
「キス、初めてだった」
「ごめんね、強引に奪っちゃって」
朱理は、首を横に振り気にしていない素振りを見せる。
「円佳も初めてだったの?」
「私は、初めてじゃない」
「付き合ってる人がいるんだ」
「付き合ってる人はいないよ。付き合ってる人がいたの」
「ふられたの?」
「ふったに近いかな。自然消滅っぽかったから」
「そうなんだ…」
まずいことを聞いたと思ったのか、朱理は語尾を弱らせる。
「まぁ、ふられて未練があるよりかはましだよ」
朱理を励ますように、軽くおちゃらけて話す。
「ねえ、恋って素敵?」
「分からない。今は友達と遊んでる方が楽しいから」
「私は…」
朱理はそこで言葉を止め、私から視線を逸らした。
開きかかった心をまた閉ざしてしまったのかと心配していると、朱理は恥じらいの表情を浮かべ、私の顔をチラッと見た。
「なに?」
朱理が怯えてしまわないように。かと言って、朱理を格下相手に扱わないように、優しく声をかける。
「私は、円佳の友達かな?」
朱理は、顔を真っ赤にしている。
「友達だよ。それも、大切な友達」
考える間もなく、私は即答した。
「うん…ありがとう」
嬉しそうに、朱理が笑った。
そんな朱理に手を差し伸べると、朱理は一瞬躊躇して、唇を噛み締めてから私の手を握った。
「ほら、大丈夫じゃない。今の朱理は、凄く優しい目をしてるよ」
手を握っても、朱理は暴れずに落ち着いたままである。
「だって、キスをされた相手だから、キスをするのに比べたら、手を触れるぐらい」
「それもそうだね」
「円佳の手って、暖かい」
「朱理の手も、暖かいよ」
私達は見つめ合って微笑み、そのまま手を繋ぎ保健室に戻った。
◇
机に向かい、目的のない受験勉強をしていると、睡魔に襲われてきた。
少し休憩しようとBGM感覚でかけている音楽に耳を傾け、椅子にもたれてしまったら、いつものパターンどおり眠ってしまうだろう。
同じ鉄を踏まないように、椅子にもたれずに立ち上がった。
お風呂に入って、目でも覚まそう。
一度お風呂に入り髪を洗っているので、髪を濡らさないようにダンゴを作る。
お風呂に入る支度を進めていると、携帯が鳴った。この着信音は舞からの電話を伝えるものだ。
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