足を踏み出して

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#19

公開日時: 2022年1月16日(日) 08:34
文字数:992

 ここのところ、受験勉強ばかりの舞とは言葉を交わす機会がなかったので、この機会を逃してはいけないなと、お風呂に入るのは中断して電話に出る。


「あっ、円佳。どういうことよ?」


 開口一番、舞は強い口調で問いかけてきた。


「何が?」


 脈絡のない問いだったので、私は問いに対し問いで返した。


「カオルの怪我よ」


「あぁ、もう知ってるんだ」


「るんから聞いた」


 私と朱理が保健室に戻ると、保健室には誰もいなかった。カオルやるんはおろか、塚本先生もいなかった。


 誰もいないので仕方なく帰ることにした私達は、私が送る形で朱理の家まで行ったので、あの事件以降私は朱理以外の人と連絡を取っていない。


 朱理と別れた後、二人と連絡を取ろうとしたけれど、二人とも携帯が繋がらない状態が続いた。


「誰が、カオルを襲ったの?」


 ボソッと呟くと、堰を切ったように舞は言葉を並べる。


「カオルを襲った奴って、誰なの! 何の恨みがあって、そんな事をしたの!」


「ちょっと、落ち着いてよ。朱理はカオルを恨んだり、憎んだりして襲ったわけじゃないよ」


「落ち着いていられるわけないじゃない。カオルは八針も縫ったんだよ。腕とは言え、傷跡が残ったらどうするの? その子に責任が取れる?」


 そうだ、あれほどの怪我をしたのだから、保健室で治療するだけで済むはずがない。朱理とキスをしていた時に聞こえたサイレンは、カオルを迎えに来たサイレンだったんだ。


 腕の辺りから出血していたが、それが手首でなくてよかった。手首を切っていたら命に関わったかもしれない。


「跡、残りそうなの?」


「医者の話だと、軽くは残るけど大して目立たないってことらしいんだけど、私も、電話でるんから聞いただけだから分からない」


「カオルとは、話してないの?」


「昨日喧嘩しちゃったから、連絡しづらくて」


「喧嘩してたんだ」


「聞いてないの?」


「聞いてないし、気付きもしなかった。だって、カオルは喧嘩してる素振りをまったく見せないんだもん」


「カオルらしい」


「どんな喧嘩をしたの?」


「劇をやろうってしつこく誘ってくるから、断り続けた」


「それだけ?」


「それだけじゃ、喧嘩にならないよ。カオルがあまりにもしつこく誘ってくるから、カオルに酷いことを言っちゃったんだ」


「なんて言ったの?」


「それは言いたくない。内緒」


 言えないぐらいの、酷いこと。舞はカオルにどんな言葉をぶつけたんだ? 罵声だろうか? それとも、軽蔑の言葉だろうか?

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