ここのところ、受験勉強ばかりの舞とは言葉を交わす機会がなかったので、この機会を逃してはいけないなと、お風呂に入るのは中断して電話に出る。
「あっ、円佳。どういうことよ?」
開口一番、舞は強い口調で問いかけてきた。
「何が?」
脈絡のない問いだったので、私は問いに対し問いで返した。
「カオルの怪我よ」
「あぁ、もう知ってるんだ」
「るんから聞いた」
私と朱理が保健室に戻ると、保健室には誰もいなかった。カオルやるんはおろか、塚本先生もいなかった。
誰もいないので仕方なく帰ることにした私達は、私が送る形で朱理の家まで行ったので、あの事件以降私は朱理以外の人と連絡を取っていない。
朱理と別れた後、二人と連絡を取ろうとしたけれど、二人とも携帯が繋がらない状態が続いた。
「誰が、カオルを襲ったの?」
ボソッと呟くと、堰を切ったように舞は言葉を並べる。
「カオルを襲った奴って、誰なの! 何の恨みがあって、そんな事をしたの!」
「ちょっと、落ち着いてよ。朱理はカオルを恨んだり、憎んだりして襲ったわけじゃないよ」
「落ち着いていられるわけないじゃない。カオルは八針も縫ったんだよ。腕とは言え、傷跡が残ったらどうするの? その子に責任が取れる?」
そうだ、あれほどの怪我をしたのだから、保健室で治療するだけで済むはずがない。朱理とキスをしていた時に聞こえたサイレンは、カオルを迎えに来たサイレンだったんだ。
腕の辺りから出血していたが、それが手首でなくてよかった。手首を切っていたら命に関わったかもしれない。
「跡、残りそうなの?」
「医者の話だと、軽くは残るけど大して目立たないってことらしいんだけど、私も、電話でるんから聞いただけだから分からない」
「カオルとは、話してないの?」
「昨日喧嘩しちゃったから、連絡しづらくて」
「喧嘩してたんだ」
「聞いてないの?」
「聞いてないし、気付きもしなかった。だって、カオルは喧嘩してる素振りをまったく見せないんだもん」
「カオルらしい」
「どんな喧嘩をしたの?」
「劇をやろうってしつこく誘ってくるから、断り続けた」
「それだけ?」
「それだけじゃ、喧嘩にならないよ。カオルがあまりにもしつこく誘ってくるから、カオルに酷いことを言っちゃったんだ」
「なんて言ったの?」
「それは言いたくない。内緒」
言えないぐらいの、酷いこと。舞はカオルにどんな言葉をぶつけたんだ? 罵声だろうか? それとも、軽蔑の言葉だろうか?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!