足を踏み出して

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プロローグ 02

公開日時: 2022年1月15日(土) 20:37
更新日時: 2022年1月16日(日) 07:45
文字数:1,103

「恥ずかしかったけど、自分から告白したよ。だって、ずっと『好きです』て視線を送ったり、行動を起こしたりしても気付いてくれないから、言葉で伝えないと駄目だなって」


「逆ナンじゃん」


「逆ナンじゃなくて、告白!」


 るんにしては珍しく、声を大にして舞の発言を否定する。


 なんでもない、友達といる時間が楽しかった。たまたま同じ辺りに住み、たまたま同じ高校に通い、たまたま友達になった関係。偶然が生んでくれたこの関係の期限が、そろそろ切れてしまう。


 店内の時計が進んでいく。あの秒針が何回円を描いたら、私達は卒業するのだろう?


 それは分からないが、卒業まで半年と少し。来年の今頃は、こうして四人で集まる機会は減り、新たに出来た仲間と過ごす時間が増えるのだろう。


「明日から、学校だね」


 私の耳には、三人の会話が届いていなかった。ただ、不意に独り言のように呟いてしまった。


「なに、辛気臭いことを言ってるの」


 舞が、呆れたように言う。


「もうすぐ、卒業だなと思って」


「卒業の前に、受験でしょ。少し気合入れてやらないと、落ちて浪人になるよ」


「一番やばいのは、舞だけどね」


「カオルはいいよなー 受験しなくていいんだから」


 今の時代、就職の方が大変だと思うが、舞はそう愚痴る。


「舞だって、受験じゃなくて就職を選べばいいじゃない」


「親が許さないだろうし、受験は嫌だけど大学には行きたいの」


「舞は、どうして大学に行きたいの?」


 大学に行きたい、それは=高校を卒業したいという意味ではないと分かっているが、私はそう問いかけてしまった。


 大学には、今通っている高校よりも良いところがあるのだろうか?


「一度は経験したいじゃん、キャンパスライフってやつを。学歴も大卒になるし、四年間働かずに大きな態度が取れる」


「そういう奴が、日本を悪くするんだよ」


 カオルが、舞の頭を軽く小突いた。


「私は、慎弥が東京の大学を受けるから着いて行く形かな。レベルの高いところを狙わなければ、今の学力で充分受かるって言われてるし」


「はいはい、お熱いことで。で、円佳はどうして大学に行きたいの?」


 舞の問いに、私は何も答えられなかった。


 義務教育と違い、高校と大学には受験がある。ただ、それだけの違いだと考え、通うのが当たり前だと高校に通っていた。


 中学を卒業するとき、周りの人達やクラスメイトは全員が高校に受験したが、今回は違う。カオルのように就職組がいる。


 自分の意思で大学受験をせずに就職を選んだカオルを見ていると、私も進路について考えさせられるようになった。


 考えなくてはいけない、これからの未来。でも今は、みんなと楽しく過ごし、悔いのない高校生活を送りたい。そんな甘えた考えしか出来なかった。

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