おどけた口調で問う円佳に、リストは嬉しさに満ちた声で『はい』と返事をした。
「悲しかったのは、もう好きな人…あの時は好きな人がいなかったから、好きになる人って言うべきかな? とにかく、好きな人の顔が見られなくなったのが悲しかった。
顔で恋人を選ぼうなんて思ってなかったけど、好きな人の全てを見たいとは思うの。好きな人の顔を見て、好きな人の何気ない仕種や癖を見て、恋愛をしたいなって。それが出来なくなって、悲しくて仕方なかった」
「ロマンティックですね」
「失明するまでは、そんなこと考えもしなかったけどね。好きな人の顔を見れるのも、仕種を見れるのも、当たり前だと思ってたから」
「私は、目が見えるだけで幸せなんですね」
「そう思えるなら、思った方が良いよ」
「えっ?」
リストは、間の抜けた声を漏らす。
「幸せって、身近にあっても案外気がつかないものじゃない。
冷静に考えれば、地雷を恐れずにどこでも歩けるのだって幸せだし、食料だって豊富に揃ってる。私達は、生まれた時点で比較的幸せな環境で育ってるんじゃないかなって。
失明した時は、凄い悲観的になって、全ての不幸を背負った気がしてた。
階段とかじゃなくて、平坦な道を歩くのだって怖かったから、一生外に出るのはやめようと思ったぐらい」
「今の円佳さんを見てると、全然そうには見えない」
「高校時代の友達がいなかったら、今の私はなかったと思う。その友達は、私に嫌われるのを恐れずに、私のことを思って行動してくれたの。
それは凄く迷惑だったけど、それ以上に嬉しかった。
人見知りが激しくて、保健室登校している内気な子も、私のために行動をしてくれた。その頑張りに勇気付けられて、私も負けてられないなって」
「保健室登校?」
聞きなれない言葉が出てきたので、言葉の意味を問う為に復唱する。
「世間でもそう言ってるのか分からないけど、保健室の先生がそう言ってたから、私達もそう言ってるんだ。
保健室登校って言うのは、学校には行ってるけど教室には行けなくて、保健室でテストとか受ける子の事を私達が通ってた高校では言ってた」
「そんな学校への行き方があるなんて、知らなかった」
「私も、朱理に会うまでは知らなかった」
「その、朱理さんって人も、私みたいに他人が怖くて仕方ないのかな?」
「ううん、リストとは正反対だよ。リストよりも質が悪いと思う。他人が怖いんじゃなくて、自分が怖いんだから」
「自分が怖い?」
「朱理は、普段は優しい目をしてて、綺麗で、女の私でも惚れちゃうぐらい魅力的な子なんだけど、他人が近付くと自分を守ろうとしちゃうのか、我を忘れて暴力を振るってしまうの」
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