暴力と聞きリストの表情が曇るが、表情を察することが出来ない円佳は、口調を変えずに語り続けた。
「悲惨なのが、暴力を振るった後なんだ。暴力を振るった後、朱理は自分自身に怯えて泣いちゃうの。
暴力を振るってはいけないって分かってるけど、他人に触れられると理性が吹っ飛んで、我を忘れてしまう。
暴力を振るって自分を守った後、理性が保てるようになると、いつも後悔するって言ってた。
簡単に言うと、キレちゃうんだろうね。普段は、暴力は良くないって常識的に分かってるけど、他人に触れられると何かが切れて暴力を振るってしまう」
キレると聞き、リストは自身を抱え込むように腕を組み、青ざめる。
「だから、自分が傷つくのを恐れてじゃなくて、相手を傷つけてしまう自分を恐れて、人と距離を置くようになった。
そんな朱理とちょっとした偶然から知り合った私は、一定の距離を保ちながら話をして、朱理は私の友達とも会うようになった。
人に触れることは出来なくても、少しずつだけど朱理の人見知りは改善されていったの」
長い昔話を終えた円佳は、リストの返事を待ったが、リストからの返答は何もなかった。
「リスト? いるよね?」
場の雰囲気がおかしくなっていると感じ取った円佳は、リストの腕に触れながら問う。
「あっ、いますよ。ごめんなさい、黙っちゃって」
と言った後、しばらく言うか言うまいか悩み、悩んだ末にリストは言う。
「ただ、そういうのっていいなって思って。私、友達がいないから」
愚痴に近い言葉で嫌だなと感じながらも、リストは本音をこぼした。
「じゃあ、チャンスじゃない。私はリストを友達だって思ってるから、リストが私を友達だって思ってくれれば、友達同士になれるよ」
円佳は、リストの腕を触っていた手を離し、その手をリストに差し出した。
差し出された手を見て、リストは一つ深呼吸をする。
深呼吸をしても手が強張ってしまうが、手の強張りなど気にせずに、心を落ち着かせ円佳の手を握り、握手する。
「これで、友達同士だね」
「でも、いいんですか? 私はまだ十五歳。五歳も歳が離れているのに先輩後輩とかじゃなくて、友達同士だなんて」
「年の差なんて、関係ないよ。私は三十も年上の友達がいるから」
「その人も?」
リストは、聞きづらそうに問う。
「うん、失明してるよ。失明してる人が集まるサークルがあって、そこで知り合う人が多いの。リストは、私が失明してから初めて出来た、目の見える友達なんだ」
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