さすがは、私達の中でファッションセンスナンバーワンのカオルだなと、素直に感心してしまう。このプレゼントは、カオルの意見を参考にして買った物である。
「ありがとう。でも、高かったんじゃない?」
「高くても、無駄じゃないから」
「じゃあ、無駄にしないように、ありがたく貰うね」
「うん」
一度広げた服を綺麗に畳み、ベッドの隅に置く。その間に私は、開けっ放しになっている鞄を閉めた。
「横浜は楽しかった?」
朱理にしては、珍しい質問だった。朱理は現状の話を好み、過去の話を嫌う。そんな朱理が数日前だけれど私の過去を聞いてくるなんて奇跡である。
「楽しかったよ。伊勢崎モールとか、みなとみらいとか行ったりして。中華街は行かなかったけど」
一瞬の間を置いて、続ける。
「朱理も来ればよかったのに」
「団体行動は苦手だから」
「なら、今度二人だけでカラオケに行かない?」
「うん、考えとく」
朱理の『考えとく』は、そのままの意味では受け取れない言葉である。朱理の『考えとく』は言葉を濁しているだけで、拒否の言葉なのだ。
はっきりと断るのを苦手としている朱理は、もったいつけて、いつの日か忘れるのを待つようにするのだ。
私は今まで、何度も朱理を遊びに誘ったが、学校以外で朱理と会ったことは一度もない。誘う度に今のように言葉を濁され、自然消滅するのがパターンになっている。
「なんか、今日の円佳、元気がないね」
「えっ、そう?」
「ごめん、よく分からない。ただ、なんとなくそう思っただけ」
なるほど、横浜が楽しかったか聞いてきたのは、探りを入れたわけか。私がいつもより元気がないと感じた朱理は、横浜で何かあったのではと考え、楽しかったかどうかを確かめたんだ。
「元気がないかどうかは分からないけど、少し悩み事があってね」
「どんな?」
「そろそろ、卒業だなって」
「そうだね」
朱理は、高校に通っているが教室には足を運ばない。校舎に入ったらそのまま保健室に向かい、保健室でテストを受けたりしている。
いわゆる、保健室登校って奴だ。
保健室登校をしている朱理は、登校しているのには間違いないので出席とみなされ、出席日数が足りなく留年する心配はないらしい。
テストの成績からしても、学力での留年もないとのことだ。
「卒業した後の、自分の姿が想像つかないんだ。大学ってなんか、学校って感じがしないじゃん。担任の先生がいるわけでもないし、制服があるわけでもない。自由が利き過ぎて、なんだか怖くて」
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