「話は戻るけど、カオルを傷つけた奴って誰なの?」
「知ってどうするの?」
「事情を聞きに行く」
「事情なら、私が話すよ」
「本人から聞かないと意味がない」
「朱理は、とても人見知りが激しくて怖がりなの。今回カオルを傷つけてしまったのだって、カオルが朱理の手に触れて、パニックになってしまったから…
カオルを傷つけてしまった後の朱理は、可愛そうなぐらい怯えていたの。自分のしてしまったことや、人を傷つけてしまう自分に怯えてたから、今はそっとして置いてあげて」
「朱理は、朱理はって、それならカオルはどうなるの? 被害者なのに、やられたまま黙ってろと言うの?」
「私だって、カオルに申し訳ないと思ってる。私がしっかりしてれば、カオルや朱理を傷つけないで済んだはずだから」
カオルが近付いて、朱理が怖がっていると気がついていたのに、カオルなら朱理の現状を打破してくれるのではと期待してしまい、止められなかった。
あの時しっかり止めていれば、こんな事態には陥らなかったんだ。
「円佳は、カオルよりも朱理って子を大切にしてる感じだね」
「友達に優劣なんかつけてないよ」
「さぁ、どうだか」
「ねぇ、私達が喧嘩をしてどうなるの? 電話をかけてきたのは、私と喧嘩をするためじゃないでしょ?」
「円佳と喧嘩をしてるわけじゃないよ。朱理って子の仲間と喧嘩をしてるの」
「確かに朱理の仲間ではあるけど、カオルの仲間でもあるし、るんの仲間でもある。もちろん、舞の仲間だとも思ってるけど」
「もう、いいよ。話になんない。自分で朱理って子を探すから、もういい」
ふてくされた口調で言い捨て、舞は一方的に電話を切った。
最近、何かが変だ。舞が受験勉強にかまけているとか、そんなのではない。皆が皆、少しずつ変な気がする。
私を筆頭に、みんなが何かに焦っている感じがする。
卒業が迫り焦っているのか、卒業後の未来…将来を考えて焦っているのか、よく分からない。
通話の切れた携帯の、液晶画面が薄暗くなる。
私は、いらだつ心を静める為に携帯を壁に投げつけようと腕を上げたが、壊れるのを恐れそのまま腕を下げる。
胸の内側がくすぐったく、瞳から涙が出そうだったが、涙は落ちなかった。涙が溢れ、大声を出し泣けたらどれだけ楽だろうか?
物心がついてから、大声を出して泣く機会はなくなったが、涙は出ていた。
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