足を踏み出して

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#45

公開日時: 2022年1月27日(木) 09:51
文字数:1,008

 事実上、朱理の不参加が決まった形である。


「さぁ、もう一回通しでやろう」


 舞の号令により、再び通し稽古が行われた。朱理の不参加が決まった形になり気が楽になったのか、今日は芝居を初めて一番の演技ができた。


 ◇


 稽古が終わり、各々が帰路につく。稽古で疲労困憊になっている私達は、帰りにどこかに寄ろうと言い出す気力と体力が残っていなかった。


 この後、舞は家で受験勉強に躍起になっていると思うと、少し同情してしまう。


 疲れているけれど、直接家に帰らず向かう場所があった。


 帰り道から少し離れところにある、本屋である。


 本に目的があるのではなく、その本屋の半分がCDショップになっており、私はCDショップの方に用があるのだ。


 目的地に着くと、軽く立ち読みをしてからCDのエリアに移動する。


 お目当てのCDを探しても、どこにも見当たらなかった。店頭に並べられないほど無名の歌手ではないが、大量入荷するほどの人気もない。これは売り切れてしまったと考えるのが妥当だろう。


 肩を落としCDエリアから出て、憂さ晴らしに本でも買おうと店内を見て回る。


 特に予定がないので、何でもいいから惹かれる本がないか探す。


 出来れば安い本がいいな。ここで憂さ晴らしにお金を使いすぎてしまったら、次の機会にCDを買う際、予算がなくなってしまう。


 何気なく見て回っているが、るんの言葉が気になっているからか、ひきこもりと書かれている本が多く置かれている気がした。


 散々探し回った挙句、結局何も買わないで店を出た。今日はきっと、買い物運がないんだ。そんな日に買い物をしたら、無駄なお金を使ってしまうだけである。


 帰り道、人通りの少ない道では、自分の台詞を復唱しながら歩いた。もちろん、人とすれ違う時は、台詞の途中でも復唱するのをやめる。


 五十メートルほど離れた横断歩道で、緑色の信号が点滅している。ここの信号は赤になったら長いので、駆け足で横断歩道に向かった。


 信号を見ながら走っていると、緑色の信号は点滅をやめ、赤色の信号がはっきりと点灯した。


 間に合わなかったか…


 それを見て、駆け足だった歩調を緩め、普通より少し遅い歩調で進む。


 信号待ちをしているのは、今のところ私一人だけなので、私は再び台詞を復唱し、暇で無駄にしかならない信号待ちの時間を有効活用する。


 一番間違えたり、詰まったりしやすい台詞に差し掛かった時、携帯から初めて聞くメロディーが流れた。


 液晶画面には【本条朱理】と表示されている。

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