「本条さん、起きてる?」
カオルの問いに、返事はなかった。朱理の性格を考えると眠っているのではなく、他者との接触を避ける為に狸寝入りをしているのだろう。
「しかとでも、本当に眠っているんだとしてもいいから、謝らせて。昨日はごめんなさい。本条さんのことを考えないで、怖がらせちゃって」
やはり、返事はない。音から察するところ、カーテン越しに話しかけているようだけど、それでも、朱理は心を開かないらしい。
「そりゃ、怖いよね。あんなにパニックになるほどの恐怖を与えたんだから。でも、どうしても話がしたいから最終兵器を持ってきたの。初めて使用する兵器が最終兵器って、結局一個だけってことなんだけど」
依然、返事がない。
「塚本先生、この縄で私の手足を椅子に縛ってください、絶対に動けないぐらいきつく。私そういう趣味が…じゃなくて、これなら本条さんも怖がらないと思うから」
なんだか、緊張感のある中でアブノーマルなボケをしている。
「いいの?」
「その為に持ってきたんですから」
「分かったわ、前原さんの趣味に付き合う…じゃなくて、頼みを聞くわ」
塚本先生まで、ボケてきた。
「縛るわよ」
「きつくお願いします」
シャーと、勢い良くカーテンの開く音が聞こえた。
「きつく縛ったら、跡が残るよ」
か細い、朱理の声が聞こえた。
驚きである。
私だって、朱理にカーテンを開けてもらうのに一ヶ月以上の時間がかかったのに、カオルは一日でカーテンを開けさせた。
ただ、カーテンを開いて対面したのではない。朱理にとってのカーテンは心の壁なのだ。カーテンを開くのは、心を開くのと同じような意味がある。
「残ったとしても、一生残る跡じゃない。若くて肌に弾力があるから、数時間で消えるよ」
「でも、腕とかに縄とかの跡があったら、夏服だし、変な噂が流れちゃう」
「心配してくれて、ありがとう」
「…うん」
なんだか、初々しい会話だった。お互い腫れ物に触るように接しているにもかかわらず、相手に対し興味があり、相手の事を知りたいと思っているような微妙な関係。
カオルがリードをしないと、この関係はもろく崩れそうである。
「怒ってないの?」
「切られた時は凄く痛かったし、頭にもきたけど、今は寧ろ良かったと思ってるよ。もう一度、こうやって話が出来てるんだから」
「私と関わっても、良いことないですよ」
「でも、私は友達になりたいと思ったんだ。この気持ちは嘘じゃないし、同情とかでもないよ」
「無意味にあなたを傷つけたのに?」
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