それでも、昔は勉強ばかりしていて友達を失った話や、暴力沙汰を起こし学校に行けなくなった話は衝撃的だったらしく、二人は驚いているような、動揺しているような複雑な表情を浮かべる。
「それって、舞と朱理さんを混ぜたような状態だね」
話を聞き終えると、窓を開け、風を受けながら話を聞いていたるんが、冷静に総評した。
確かに、るんの言うとおりだ。勉強にかまけて友達を失う状態は舞。暴力を振るい学校に行けなくなったのは朱理に似ている。
「カオルが、劇をやろうって執拗に誘うのは、昔の自分みたいに、舞になってほしくないからだと思うの」
私の結論を聞くと、椅子と床がこすれる音が響き、舞が立ち上がった。
立ち上がった舞は、何も言わずに教室から出て行こうとする。
「どこに行くの?」
「図書館に戻る」
「何をしに?」
「勉強に決まってるでしょ」
「カオルの過去の話、舞の心には響かなかったかな」
「響いたよ。私だってそんなに冷たい人間じゃない」
その言葉が、今日、舞と交わした最後の言葉になった。これ以上は、どう説得いればいいのか分からない。
何も言うことがないのに、ただ引き止めるだけだと場の雰囲気を悪くするだけに思え、それ以上は引き止められなかった。
カオルは、知られたくない過去をバトンにし、私に託した。私はそのバトンを上手く舞に渡せたのだろうか? 渡せたとしたら、二人の仲は修復するはずだが…渡せた自信がない。
不甲斐ない自分に腹を立てていると、慰めるようにるんが私の肩を叩いてくれた。
◇
日曜日は、まるで必然のように誰からも連絡がなく、誰とも連絡を取らなかった。確かめようがないけれど、それは私だけではなく、私達四人全員そうだと思う。
別れ方が別れ方だったので、心を整理する時間が必要である。
私達四人は各々日曜日に心を整理するために、連絡を取らなかったんだと思う。
私の推測が的外れで、私以外は平気で連絡を取り合っていたとしたら、かなりショックだ。
どんな顔をして教室に入ればいいか分からないので、珍しく早起きをし、朝一で家を出た。
みんなが来る前に教室に入ってしまえば、待ち構えられる恐れはないし、教室の雰囲気に馴染み、心が落ち着くかもしれない。
いつもより一時間ほど早い通学路は、新鮮な匂いがした。陽の高さや、風の匂いがいつもと違い、季節まで違う感覚になる。
学校が近付くと、パラパラと同じ制服の生徒が見えてきた。こんなに早く学校に来る人もいるんだなと驚いた後、部活の早朝練習の人かもしれないと勝手に結論付け、歩を進める。
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