「キスは…しませんよね?」
「キス? そこまではしないよ。安心して」
「それなら…少しなら…」
「触れていいの?」
「キスをしないなら」
「やたらキスにこだわるけど、どうしてか聞いていい?」
「その…昨日、円佳にキスをされたんです。私を落ち着かせるためだったんだろうけど、突然…」
耳まで赤くなっているのではと思えるほど、私の体は熱くなっていた。まさか、昨日のキスがカオルにばれるなんて…恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
誰にも内緒だよと、釘をさしておけばよかった。
「円佳からキスをされたのは、嫌じゃなかったんです。寧ろ嬉しかった。だから、あなたとはキスをしたくないというか…あなたとキスをしたら、昨日のキスが無意味になるっていうか…」
「なんてなく分かるよ、その気持ち」
「あの、キスの事を話したのを、円佳に内緒にしてくれますか?」
「いいよ。その代わり、私の過去も円佳には内緒。それでいい?」
「はい」
このままでは、いけない気がした。何も知らない振りをして二人と接するのが最良の手段かもしれないが、何も知らない振りをしながら接するほど利口でも器用でもない。その内きっとボロが出るだろう。
私はカーテンを捲り、被るようにして頭を出すと、カオルの背中が見え、朱理と目が合う。
「あの、全部聞いてたりして」
勤めて明るく振舞うと、カオルは冷静に振り向き、軽く鼻を掻きながら『あらら』と気のない言葉を零した。
「じゃあ、るんには内緒ってことで」
さすが、今を生きるタイプ。私に知られてしまったのさえ、既に過去になっている。
カオルとは対照的に、朱理は顔を真っ赤にしていた。
どうして、朱理が照れてしまっているのだろうと思い朱理を見ると、朱理の手は微かにカオルと触れ合っていた。
「ところで、今何時なの?」
「何、寝ぼけてるの。もう放課後よ。嬉し恥ずかしアフター スクール」
そんなに長く眠っていたのか。
私は学校に何をしにきたのだろう。今日は保健室で眠っていただけである。
「教室に鞄がないから、今日は休みかと思った」
「学校に来るまではなんでもなかったんだけど、朱理に会いに保健室に来たら、寝不足から頭が痛くなっちゃって。それで、朱理が来るまで保健室で休んでようと思ったら、いつの間にか寝てた」
舞はまだ怒っているだろうが、カオルは昨日のことを気にしないでくれている。これなら、今度は教室に行けそうなので事実を伏せてそう告げた。
「じゃあ、もう体調は悪くないんだ?」
「授業をサボって寝てたから大丈夫」
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