出会った当初のように、力ない声でるんが答える。
「円佳は?」
「私は、将来に不安を覚えてるのか、よく分からない。これから自分は何をどうしたらいいか分からないから、将来なんて先のことを考えられないし、将来に対して明確な不安を覚えられない今の自分に不安を覚える」
「じゃあ、どうしてみんなは遊んでいられるの! 将来が不安なら、将来の為に何かやっておこうと思うのが普通でしょ! 朱理って子も、るんも、円佳も、カオルも、どうして将来の為に努力しないの!」
教室内に、舞のヒステリックな声が響く。
それに答えたのは、カオルだった。
「私達は、将来が不安だけど、将来の自分が過去を悔やまないように、楽しい青春時代、誇れる青春時代を作るために、みんなといる時間を大切にしてるんだよ。
これは私の憶測だけど、円佳やるんは、みんなと一緒ではない一人の時間の時に、将来の為に努力してる。舞みたいに、将来の為だけって片寄った努力の仕方をしてないんだよ」
カオルが言うと、るんはその通りだと言うようにうなずいた。
私は、一人でいる時間も将来の為に大した努力をしていないが、この展開だと同意するのが得策だろうとうなずく。
「そんなの、逃げてるだけじゃない。押し寄せてくる不安を見ないようにして、今を楽しんで現実から逃避してる。そしたら、今は楽しいかもしれないけど、楽しんだ分の皺寄せが必ず伸し掛かってくるよ」
「逃げて、何が悪いの? 立ち向かうだけが全てじゃないと思うけど」
「カオルは、受験勉強をしないで済むからお気楽でいられるんだよ。私達みたいに大学を目指してる人は、カオルみたいに能天気に毎日を過ごせないのが普通なの」
「舞!」
私は、思わず叫んでいた。
カオルは、大学に行きたいという思いを心に止め、迷惑をかけてしまった父の救いになるべく就職コースを選んだ。その事実を知っている私にとって、舞の言い分は身勝手なものにしか感じない。
みんなの視線が、私に集中する。みんなが、私の発言に注目している。
「カオルは…本当は…」
カオルの過去は、内緒事だ。詳しい事を隠して上手く何か言おうと思ったが、隠す箇所が多すぎて言葉にならない。
「円佳」
カオルが、頼りない声色で私の名を呼ぶ。カオルの顔を見ていると、瞳が微かに潤んでいた。
やはり、過去の自分をみんなに知られたくないんだ。
「カオル…駄目?」
「出来れば」
「これは、過去のことなんだよ。今のカオルじゃない」
「そうなんだけど」
こんなに歯切れが悪く、消極的なカオルは初めて見た。いや、正確に言うと見ていないが、これは二度目かもしれない。
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