それだったら、いいと思う。
私の失明に責任を感じ、前より伏し目がちになっていなければいいのだ。
今日は、あまり話が弾まなかった。毎日遊びに来てくれているので、話のネタがなくなってしまっている。
学校での話をしたら私が傷つき、テレビの話は私がついていけない。そう考えてか、失明してからよく上がる話題は、過去のものが多かった。
私が映像として頭に思い浮かべられる話題しか、話すネタがないのだ。
まだ、生きてきて十七年と少し。カオルと会って半年も経っていないので、過去の話などすぐに底をついてしまう。
本当は、これからたくさんの思い出や記憶を作っていくはずだったのに、私の思い出は十七年で止まってしまった。
過去の話がなくなってしまった今日、どうしても沈黙が続いてしまう。
「家にこもってないで、そろそろ、外に出よう」
突然、舞がそう提案した。
皆、話の弾まない理由に気付いているのだ。
過去はもうない。今に目を向けないといけないと。
でも、私は拒否した。嫌だと口に出すと子供じみているので、首を横に振る。
「怖いのは分かるけど、いい加減外に出ないと駄目だよ。このまま部屋に引きこもってたって、何にもならない」
腕を強く握られたが、私はその腕を力いっぱい振り払う。
話の展開からすると、腕を握ったのは舞だったのだろう。
「外に出ないと駄目だって」
舞は、子供を叱るようにではなく、子供を諭すように優しく言う。
「どうして、外に出ないと駄目なの?」
「外に出ないと、何も始まらないよ」
外に出ないと、何も始まらない? そんなの、嘘だ…外に出たって、どうせ何も始まらないのだ。
「外に出たからって、何が始まるって言うの! 何をしたって、何も始まらないの…私はもう、過去を懐かしんで、最低限の迷惑をかけながら生きていくしかないの!」
光を失い、これからの人生どうやって生きよう。そうずっと考えて出した結論が、こうだった。
一人で外に出たら両親が心配するし、私自身怖いので出る気はない。
心配をかけ怖い思いをするぐらいなら、部屋で一生を過ごすのも悪くないと思えた。
そんな生活を続けていれば、食事を作ってもらったり、洗濯をしてもらう、今までと
あまり変わらない日常的な世話をしてもらうだけで済むから。
私の主張が終わると、頬に痛みが走った。
舞の平手が、容赦なく私を叩いたらしい。
目の前で『やめなよ』とカオルの声がして、どたばた物音が聞こえる。
「大丈夫?」
るんの声が聞こえると同時に、首筋に空気が伝わった。るんの息だろう。
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