足を踏み出して

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退会したユーザー

#53

公開日時: 2022年1月27日(木) 09:57
文字数:1,024

 それだったら、いいと思う。


 私の失明に責任を感じ、前より伏し目がちになっていなければいいのだ。


 今日は、あまり話が弾まなかった。毎日遊びに来てくれているので、話のネタがなくなってしまっている。


 学校での話をしたら私が傷つき、テレビの話は私がついていけない。そう考えてか、失明してからよく上がる話題は、過去のものが多かった。


 私が映像として頭に思い浮かべられる話題しか、話すネタがないのだ。


 まだ、生きてきて十七年と少し。カオルと会って半年も経っていないので、過去の話などすぐに底をついてしまう。


 本当は、これからたくさんの思い出や記憶を作っていくはずだったのに、私の思い出は十七年で止まってしまった。


 過去の話がなくなってしまった今日、どうしても沈黙が続いてしまう。


「家にこもってないで、そろそろ、外に出よう」


 突然、舞がそう提案した。


 皆、話の弾まない理由に気付いているのだ。


 過去はもうない。今に目を向けないといけないと。


 でも、私は拒否した。嫌だと口に出すと子供じみているので、首を横に振る。


「怖いのは分かるけど、いい加減外に出ないと駄目だよ。このまま部屋に引きこもってたって、何にもならない」


 腕を強く握られたが、私はその腕を力いっぱい振り払う。


 話の展開からすると、腕を握ったのは舞だったのだろう。


「外に出ないと駄目だって」


 舞は、子供を叱るようにではなく、子供を諭すように優しく言う。


「どうして、外に出ないと駄目なの?」


「外に出ないと、何も始まらないよ」


 外に出ないと、何も始まらない? そんなの、嘘だ…外に出たって、どうせ何も始まらないのだ。


「外に出たからって、何が始まるって言うの! 何をしたって、何も始まらないの…私はもう、過去を懐かしんで、最低限の迷惑をかけながら生きていくしかないの!」


 光を失い、これからの人生どうやって生きよう。そうずっと考えて出した結論が、こうだった。


 一人で外に出たら両親が心配するし、私自身怖いので出る気はない。


 心配をかけ怖い思いをするぐらいなら、部屋で一生を過ごすのも悪くないと思えた。


 そんな生活を続けていれば、食事を作ってもらったり、洗濯をしてもらう、今までと


 あまり変わらない日常的な世話をしてもらうだけで済むから。


 私の主張が終わると、頬に痛みが走った。


 舞の平手が、容赦なく私を叩いたらしい。


 目の前で『やめなよ』とカオルの声がして、どたばた物音が聞こえる。


「大丈夫?」


 るんの声が聞こえると同時に、首筋に空気が伝わった。るんの息だろう。

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