「良い人を、傷つけたくないから」
良い人だから、一緒にいたくないのなら、悪い人となら一緒でもかまわないということになる。
良い人を傷つけるよりも、悪い人に傷つけられる方が良いと自虐的に考えているようだ。
どうして、朱理はこんなにも悲観的に物事を考えてしまうのだろう? 私は保健室で朱理と出会っただけで、保健室登校する前の、普通に学校に通っていた朱理を知らない。
今までの話から推測できるのは、朱理が暴力を振るい、クラスメイトを傷つけたということぐらい。
好き好んで暴力を振るったわけではなく、見ていていたたまれなくなるほど、朱理は深く反省をしている。
すっかり更生しているのだから、そんなにも悲観的にならなくていいと思うのだけれど、本人はそう楽観的には考えられないようだ。
私が朱理にして上げられるのは、触れない程度に傍にいて、話をするぐらい。
朱理は極端に他人との肉体的接触を嫌う。
今朝来た時、お土産を渡す際にベッドの上に置いたのだって、手が触れ合ったりしないように気を遣ったからだ。
私が保健室に来たら、朱理はオモチャを与えられた子供のように喜び笑う。そんな私にさえ、一定の距離を保っていないと落ち着かないようだ。
いったい、家ではどうなのだろう?
家族に対しても一定の距離を置き、肌が触れ合わない程度の距離を保たないといけないのだろうか?
文化祭の準備と受験勉強を両立させながら、進路を考えなくてはならない。体も頭も多忙な時期にもかかわらず、私の感情は朱理に支配されていた。
卒業までに、少しでも朱理の悲観的な考え方を治してあげたい。そうしないと、朱理の未来が暗く淀んだものになってしまう気がしてならないのだ。
◇
部員集めは、予想通りの展開になっていた。予想通りであって、予定通りではない。
「慎弥は、名前を貸すぐらい構わない言ってたよ」
「こっちの方は、今のところ全然」
カオルはお手上げの仕草を見せ、五分ほど愚痴が続いた。
愚痴が終わると、私は塚本先生が顧問になってくれることになったと報告をする。
結果的には、三人の内、課せられた役割を果たしたのが二人。かなりの率で目標を達成しているが、一番達成してほしかった舞の勧誘が失敗に終わってしまったので、手放しで喜べない。
それでもカオルは、次は絶対に勧誘してみせると諦めていないようだ。
「舞を勧誘するのはいいけど、早いところ名前だけでも貸してもらわないと、正式に部を作れないよ」
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