朱理が私に電話をかけてくるなんて、初めてだ。嬉しい気持ちと、電話をしないといけないほど切羽詰った状態になっているのではという不安で、私の指は微かに震えていた。
「もしもし」
『あっ…円佳?』
私の携帯にかけたのだから、私が出る可能性が高いのだが、こういった電話に慣れていない朱理は私が出たのかどうか不安そうだ。
「そうだよ、朱理から電話をかけてくれて、喜んでる円佳だよ」
気分をほぐそうと、私は明るく答える。
「珍しい…て言うより、初めてだよね。朱理が電話をくれたの」
『うん、電話で話すのって苦手だから』
「メールでもいいのに」
『メールだと、変に改まっちゃうから』
受話器越しに聞く朱理の声は、なんだか新鮮だった。口調が弱々しいのに、声色は大人びている。それがなんとも言えず色っぽい。
『あの、今、舞さんが家に来てるの』
「ウソ!」
まだ、舞に対しては完全に心を開いていないらしく、呼び捨てでは呼ばなかった。しつこく劇をやろうと勧誘しているので、多少恐れているのだろう。
「舞は、すぐ傍にいるの?」
と問いかけた後、傍にいるはずがないと気がついた。舞がいる前で堂々と舞が来ていると私に打ち明けないだろう。
『家の外にいる』
「家には上がってないんだ」
『ママに頼んで、居留守を使ったの。でも、舞さんは私が帰ってくるまで待つ気みたいで、家の外から動かないんだ』
「部屋の電気は点けてるの?」
『点けてるけど、どうして?』
「それなら、居留守を使ってるのばれてるんじゃないかな。二回の部屋って大概子供の部屋になるでしょ? それで、二階の部屋に電気が点いてたら、朱理は帰ってきてるって感づくかも」
『二階には二つ部屋があって、隣の部屋は姉さんの部屋で、その部屋は電気が消えてるから、絶対に居留守を使ってるとは断言できないよ』
「そっか、違う子供がいるって考えもあるか。私って一人っ子だから、一人っ子を基準に考えてた」
『それで、お願いがあるの』
「なに?」
『舞さんに、帰るように説得してくれないかな』
「それはいいけど、私が朱理の家に行って、帰るように説得するのは矛盾があるんじゃない? どうして、朱理の家に舞が行っているのを知っているのかって話になるよ」
『それなら、一応考えがあるんだ』
その考えとは、単純かつ有効な方法だった。
私も朱理に用があり、朱理の家を訪ねるが、朱理の母にまだ帰ってきていないと言われ、私は仕方なく舞と一緒に帰るという筋書きだ。
舞が『私はまだ待っている』と言っても、私はどうにかして舞と一緒に帰らないといけない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!