そうしている間に、物事が良い方向に進んで行っているならまだしも、打開策がないまま、足踏み状態になってるのが辛くてさ」
『疲れてるね、円佳。考え方が後ろ向きになってるよ』
心配そうに、朱理が声をかける。
「それは、自覚してる。気持ちの持っていきかたがうまくいかないの」
『今度の日曜日、カオルを誘って気晴らしに遊びへ行かない? カオルもなんだか疲れてるみたいだし』
「カオルも疲れてるの?」
『ここのところ、毎日早退してるんだ』
「そうなんだ。で。朱理は?」
『私も、毎日早退してる。やっぱり、カオルがいないと不安だから』
しばらくの間を置き、朱理が続ける。
『また、キレちゃうんじゃないかって』
「早退した方が良いと判断したなら、そうした方が良いよ。無理しない方が良い」
一人で働けない朱理を責めず、寧ろ、早退する朱理を褒める。せっかく、人見知りが治ってきているのだから、無理をして再発させる必要はない。
円佳は、昨晩話したカオルの電話越しの声を思い出してみた。
思い出しても、口調や声の張りから、カオルから疲れを感じ取れない。
自分が鈍いのか、カオルが疲れを隠すのがうまいのか、はたまた、その二つとは違う理由があるのか分からないまま、朱理との会話を続けた。
九月二十六日
リストは、いつもと同じように母の帰りを待っていた。唯一違う点は、母好みの料理でテーブルが埋め尽くされているぐらいだろう。
最近の母は仕事が忙しいらしく、疲れた表情を浮かべている。機嫌は悪くないのだが、リストが話しかけても心ここにあらずのケースが目立つようになっていた。
そんな時は気をつけないといけないと、リストは今までの経験から察していた。母に悟られないように、自然な振る舞いで母の機嫌を良くしないといけない。
料理の出来を確認して、お風呂に入れたお湯の温度を確認する…抜かりはない。完璧なはずだ。
お風呂場でお湯を確認していると、ポツポツと音が聞こえた。
急いで外を見てみると、軽くだが雨が降り出していた。
一定のリズムで鳴り響いていた雨音は、次第に強まっていき、雑音のように『ザー』と鳴り響く。
玄関に行き傘立てを確認したリストは、いつも母が使っている傘が立てられているのを見て青ざめ、覚悟した。
そろそろだ…
カチカチと秒針が進むに連れて、母が帰ってくる時間が近付いてくる。
秒針と同じ速度で聞こえていたリストの鼓動が、時が進むに連れて秒針よりも早くなっていく。
キッチンに行き、危険なものがないか確認する。
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