足を踏み出して

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#96

公開日時: 2022年1月30日(日) 22:42
文字数:1,009

「あまり謙遜ばかりしてると、実力行使で可愛さを思い知らせるよ」


「実力行使?」


「リスト姫に口付けをする」


「どうして、そうなるんですか?」


「思わずキスをしてしまいたくなるほど、リスト姫が可愛らしいから」


 リストの顔が、真っ赤に染め上がる。


「なんなら、その腫れ上がった頬に口づけをしようか? もしかしたら、魔法の力か何かで治るかもしれないよ」


 妖艶に微笑むカオルの瞳を見つめ、リストが言う。


「魔法の力?」


「私達の友達で、保健室登校をしてた朱理って子がいるの、知ってる?」


「円佳さんから、聞きました。突然キレてしまい、人を傷つけてしまう自分を恐れてる人」


「そう、その朱理の人見知りが治り始めたのは、キスの魔法のおかげなんだ」


「そんな、おとぎ話みたいな話がある訳が」


「嘘みたいな話だけど、本当なの。キレて、錯乱状態の朱理に円佳がキスをした。舌を噛み切られる恐れがあるのに、ディープキスをしたの。そしたら、朱理は驚いて錯乱が止まったんだって。それから、朱理は少し人見知りが治ったんだ」


「円佳さんが、女性とキスを?」


「キスには魔法のような力があるの、信用できた?」


 仰向けになり転がっているリストは、頭を少し起こすようにして頷いた。


「リスト姫が望むのなら、喜んで魔法をかけさせていただきますが、どうします?」


 カオルは男口調で、しっかりとそう告げる。


「そうしてくださいと頼んだら、本当は困るんでしょ?」


「いいや」


 カオルはベッドに片手をつき、上からリストの顔を覗いた。


 サラサラと長いカオルの髪が、リストの顔を軽く撫でる。


「唇と頬、どっちがお望みですか? リスト姫」


 リストは慌てて両手を上げ、カオルの肩を押さえて『さっきのは冗談です』とキスを拒否した。


「なんだ、残念」


 心から残念そうに呟き、カオルは近くにあった椅子に腰をかける。


「残念って…お姫様の私なんかより、カオルさんの方が物語に出てくる王子様みたいです」


「あぁ、あれは私がモデルらしい」


「そうなんだ」


「女なのに、男役のモデルなんてね」


「でも、素敵です」


「有り難う」


 カオルは体を前に倒し、リストとの距離を心持ち縮めてお礼を言う。


「もっと話していたいけど、私、そろそろ行かなくちゃいけないんだ。また今度、お見舞いに来てもいいかな?」


 カオルは、心から残念そうに時計を見る。


「はい」


「リスト姫が入院してるの、円佳には言わない方がいい?」


「円佳さんに隠し事はしたくないけど、円佳さんには知られたくない」

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