「あまり謙遜ばかりしてると、実力行使で可愛さを思い知らせるよ」
「実力行使?」
「リスト姫に口付けをする」
「どうして、そうなるんですか?」
「思わずキスをしてしまいたくなるほど、リスト姫が可愛らしいから」
リストの顔が、真っ赤に染め上がる。
「なんなら、その腫れ上がった頬に口づけをしようか? もしかしたら、魔法の力か何かで治るかもしれないよ」
妖艶に微笑むカオルの瞳を見つめ、リストが言う。
「魔法の力?」
「私達の友達で、保健室登校をしてた朱理って子がいるの、知ってる?」
「円佳さんから、聞きました。突然キレてしまい、人を傷つけてしまう自分を恐れてる人」
「そう、その朱理の人見知りが治り始めたのは、キスの魔法のおかげなんだ」
「そんな、おとぎ話みたいな話がある訳が」
「嘘みたいな話だけど、本当なの。キレて、錯乱状態の朱理に円佳がキスをした。舌を噛み切られる恐れがあるのに、ディープキスをしたの。そしたら、朱理は驚いて錯乱が止まったんだって。それから、朱理は少し人見知りが治ったんだ」
「円佳さんが、女性とキスを?」
「キスには魔法のような力があるの、信用できた?」
仰向けになり転がっているリストは、頭を少し起こすようにして頷いた。
「リスト姫が望むのなら、喜んで魔法をかけさせていただきますが、どうします?」
カオルは男口調で、しっかりとそう告げる。
「そうしてくださいと頼んだら、本当は困るんでしょ?」
「いいや」
カオルはベッドに片手をつき、上からリストの顔を覗いた。
サラサラと長いカオルの髪が、リストの顔を軽く撫でる。
「唇と頬、どっちがお望みですか? リスト姫」
リストは慌てて両手を上げ、カオルの肩を押さえて『さっきのは冗談です』とキスを拒否した。
「なんだ、残念」
心から残念そうに呟き、カオルは近くにあった椅子に腰をかける。
「残念って…お姫様の私なんかより、カオルさんの方が物語に出てくる王子様みたいです」
「あぁ、あれは私がモデルらしい」
「そうなんだ」
「女なのに、男役のモデルなんてね」
「でも、素敵です」
「有り難う」
カオルは体を前に倒し、リストとの距離を心持ち縮めてお礼を言う。
「もっと話していたいけど、私、そろそろ行かなくちゃいけないんだ。また今度、お見舞いに来てもいいかな?」
カオルは、心から残念そうに時計を見る。
「はい」
「リスト姫が入院してるの、円佳には言わない方がいい?」
「円佳さんに隠し事はしたくないけど、円佳さんには知られたくない」
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