「朱理さんはどうなの? 体調」
「私は、体調が悪くて保健室にいるわけじゃないから」
「そうなんだ」
「それに、朱理でいいです」
「なら、私の呼び方もブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオルでいいよ。
例えば『ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル遊ぼう』とか」
「長いよ」
くだらないことを言うカオルに朱理が戸惑っているので、私は慣れない突っ込み役になってしまった。
「ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル、あっ、人違いでしたとか」
「それはきついな」
「ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル危ない! とか」
「それじゃ、手遅れだよ」
漫才のようなやり取りをしていると、朱理はクスクスと笑った。遠慮せずに笑っていいのに、遠慮がちに笑う。まだ、人前で笑うのに慣れていないようだ。
それから私達は、時が過ぎるのを忘れ、陽が落ちるまで談笑した。いつも朱理と二人で話しているより、今日のようにカオルを含め三人で話す方が盛り上がり、仲間は多い方が良いものだと実感した。
◇
土曜日、私は近所にある公園のベンチに座り、缶ジュースを飲みながらカオルとるんを待っていた。
昨日、陽が落ちるまで保健室で会話を楽しみ、その後カオルと一緒に朱理を送った帰り道、途中までカオルと一緒だったので、舞について話し合った。
その結果、休日である今日、三人で舞の家に押しかけ、朱理の誤解を解こうと話が纏まった。
朱理は、好きで暴力を振るっているわけではない。暴力を振るってはいけないと分かっていても、パニックになり体を制御できなくなるのだ。
人を傷つけた後、過ちを悔いて、後悔してしまう。そんな朱理の性格を理解してもらえれば、舞の気が治まるかもしれない。
「おはよ。るんはまだ?」
軽く挨拶をしながら、カオルがやってきた。手には一冊のノートが握られている。
「まだだよ。約束の時間まで後五分あるし」
「時間にルーズではないるんと、朝に弱いるん。どっちが勝るんだろうね」
「両方じゃない? 朝が弱いから寝坊して、時間にきっちりしてるから、遅れるってメールを送ってくるとか」
「ありえるね」
カオルが、私の横に腰を下ろす。
「演出の方は、何か良い案が出た?」
「そこそこ」
案は何種類が上がっているが、それは私の自己満足かもしれない。私が良い案だと思っても、他者にとってその案は面白味がなく、賛成できないものなのではと弱気になってしまう。
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