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#30

公開日時: 2022年1月27日(木) 09:37
文字数:1,002

「朱理さんはどうなの? 体調」


「私は、体調が悪くて保健室にいるわけじゃないから」


「そうなんだ」


「それに、朱理でいいです」


「なら、私の呼び方もブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオルでいいよ。


 例えば『ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル遊ぼう』とか」


「長いよ」


 くだらないことを言うカオルに朱理が戸惑っているので、私は慣れない突っ込み役になってしまった。


「ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル、あっ、人違いでしたとか」


「それはきついな」


「ブライアン・ジェームス・ロバート・ジェニファー・カオル危ない! とか」


「それじゃ、手遅れだよ」


 漫才のようなやり取りをしていると、朱理はクスクスと笑った。遠慮せずに笑っていいのに、遠慮がちに笑う。まだ、人前で笑うのに慣れていないようだ。


 それから私達は、時が過ぎるのを忘れ、陽が落ちるまで談笑した。いつも朱理と二人で話しているより、今日のようにカオルを含め三人で話す方が盛り上がり、仲間は多い方が良いものだと実感した。


 ◇


 土曜日、私は近所にある公園のベンチに座り、缶ジュースを飲みながらカオルとるんを待っていた。


 昨日、陽が落ちるまで保健室で会話を楽しみ、その後カオルと一緒に朱理を送った帰り道、途中までカオルと一緒だったので、舞について話し合った。


 その結果、休日である今日、三人で舞の家に押しかけ、朱理の誤解を解こうと話が纏まった。


 朱理は、好きで暴力を振るっているわけではない。暴力を振るってはいけないと分かっていても、パニックになり体を制御できなくなるのだ。


 人を傷つけた後、過ちを悔いて、後悔してしまう。そんな朱理の性格を理解してもらえれば、舞の気が治まるかもしれない。


「おはよ。るんはまだ?」


 軽く挨拶をしながら、カオルがやってきた。手には一冊のノートが握られている。


「まだだよ。約束の時間まで後五分あるし」


「時間にルーズではないるんと、朝に弱いるん。どっちが勝るんだろうね」


「両方じゃない? 朝が弱いから寝坊して、時間にきっちりしてるから、遅れるってメールを送ってくるとか」


「ありえるね」


 カオルが、私の横に腰を下ろす。


「演出の方は、何か良い案が出た?」


「そこそこ」


 案は何種類が上がっているが、それは私の自己満足かもしれない。私が良い案だと思っても、他者にとってその案は面白味がなく、賛成できないものなのではと弱気になってしまう。

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