「ねぇ、今度一緒にさ、買い物に行かない? カエルグッズがたくさん置いてあるお店を知ってるんだ」
意外なことに、朱理もカエルグッズを気に入っていた。るんが自慢げにカエルグッズを披露した時は、迷惑なのではないかと朱理の顔色を窺ったが、朱理は光り輝く宝石を見るようにカエルグッズを凝視していた。
「ハンカチとか時計とか、色々なのがあったよ」
カエルグッズの話が出来て嬉しいのか、るんは鼻息を荒くしている。るんがカエルグッズの話をする時、私達三人は相槌程度しか返事をしなかったが、朱理は話に乗ってくれる。ようやく同志が見つかり、テンションが上がっているようだ。
「ハンカチとか欲しい」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
「買ってきてくれないかな?」
「どんなデザインがいいか分からないから、無理だよ。やっぱり、自分で買ったほうが予算とかで後悔しないし」
買ってきてあげればいいのになと思うが、るんは申し訳なさそうに断っている。
「一緒が嫌なら、場所を教えるから一人で行ってみなよ。そんなに遠くないから、気楽に行けるよ」
そう言って、朱理は二駅離れた場所にあるお店を説明した。口だけの説明では分かりづらいので、塚本先生にペンと紙を貸してもらい地図を書く。
そのお店に行ってみるかどうかの返事を聞かないまま、この話題は終わり、談笑を楽しんでから保健室を出た。
「ハンカチぐらい、買ってきてあげればよかったんじゃない? 朱理はデザインが気に入らないとか文句を言わないよ」
保健室を出て教室に向かう最中、私は抱いていた疑問を投げかけた。
「ひきこもりの人に一番やってはいけないのが、物を買い与えることなんだよ。お金をあげてもいいけど、欲しいものをあげちゃ駄目。自分で買いに行くようにしないと」
「朱理は、ひきこもりじゃないよ。現に、学校に来てるじゃん」
「完全にひきこもりではないけど、たぶん、朱理は家から学校に行く以外、あまり外に出てないよ。出たとしても、外を歩いてるだけで、店員と接するのを嫌って、買い物とかはしてないんじゃないかな」
「どうして分かるの?」
「女の勘」
「私だって女だよ」
「女の勘ってのは冗談。りん姉さんが軽くひきこもってた時があるんだ」
朱理がひきこもり。いや、完全にではないから、ひきこもりがちと言った方が正確だろう。どっちにしても、考えてもみなかった事だ。
もしも、るんの勘が合っているとしたら、事態は思ったより深刻だ。
「外を歩くのとかは大丈夫なの。もちろん、お店に入るのもね。ただ、レジで会計を済ませるとなると、必ず他人と向き合わなくっちゃいけないじゃない。それがプライベートではなくて、業務的な相手だとしても、他人と接するのを苦手としている人にとっては、かなりのプレッシャーになるんだ」
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