「おはよう、久しぶりだね」
朱理はうなずいてから、話の腰を折ってしまい申し訳ないと思っているのか、軽く謝るように『ベッドに転がっていい?』と問いかけてくる。
もちろん私は、うなずいて了承の意思を見せる。
ベッドに乗り、膝まで布団を掛ける仕草の一つ一つが大人っぽく、女の私でも惚れてしまいそうだ。髪がベリーショートなのに、女性としての色香が自然と漂ってくる。
最初に朱理と出会った時、間違いなく年上だと思った。同じ学年の色をしたネクタイをしているのを見て、同い年だと分かったから声をかけたけれど、先輩だとしたら声を掛けづらい雰囲気を醸し出している。
夏休みの間、朱理とは一度も会っていないので、私達は一ヶ月と少しぶりの再会である。
「随分と焼けてるけど、どこか遊びに行ったの?」
ベッドに座った朱理に、率直な感想を述べる。夏休み前の朱理は、一般的な日本人の肌色をしていたが、今は健康的に焼けている。
日焼けした肌はベリーショートの髪型と合っていて、美しい健康美とはこういうものなのだなと息を呑んでしまう。
「ずっと、散歩をしてた」
「そうなんだ、散歩が趣味なんて知らなかった」
「外を歩き続けてれば、誰かを傷つける恐れがないから」
「なるほど…仕方なく、散歩をしてたんだ」
「でも、歩くのは嫌いじゃないよ。健康にいいし、スタイルも良くなる」
「私は分かってても、怠けちゃうんだよね。家電を買う時に重点的に見るのが、リモコンで動かせるかどうかってぐらい怠け者だから」
「私だって、リモコンぐらい使うよ」
朱理が笑った。
その笑顔が、嬉しかった。
初めて会った時から、朱理は悲観的な考えをする子だった。
悲観的な言葉を口にしては、死相が見えるほどの曇った表情を浮かべ、寡黙になってしまっていた。
その朱理が、悲観的な台詞の後に笑顔を浮かべられるようになったのだ。大した進歩である。
「そういえば私、横浜に行ったんだ」
と言いながら、持って来た鞄を開ける。
「はい、お土産。いらなかったら塚本先生に上げちゃってもいいから」
鞄から取り出したお土産をベッドの上に置いた。その際、後ろから『先生をゴミ箱扱いしない!』と塚本先生に怒鳴られたけど、特に気にしないことにする.
怒鳴り声は機嫌の悪さから出たのではなく、明るい怒鳴り声だった。要するに、場を和ますために突っ込んでくれただけなのだ。
ベッドの上に置かれたお土産を、朱理は丁寧に包装紙を剥がし、中に入っていたスカーフと服を見て満面の笑みを浮かべた。
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