本能のまま泣けなくなってしまった自分が、急に大人になってしまったようで怖くなり、私はお風呂に入るのをやめて、そのままベッドに転がった。
◇
こんなにも、学校に行きたくないと思った朝はなかった。
舞と会いたくないし、カオルには合わす顔がない。いっそ、ズル休みをしてしまいたい気分だったが、朱理のことを考えると学校の準備をしていた。
舞とカオルが原因で学校を休もうと思い、朱理が原因で学校に行こうと決心した。なんだか、友達の大切さを秤にかけているようで気分が悪くなってくる。
気分の悪さが影響して、学校の支度を終えても中々部屋を出られずにいた。
『円佳はカオルよりも、朱理って子を大切にしてるね』
昨晩の言葉が頭に蘇る。
私は優劣をつけていないと答えたが、今はどうなのだろう? 学校に行くと決めた時点で、優劣をつけたことになってしまうのではないか?
そう思うと、どちらの選択も出来なくなってしまう。
ノック音無しに、部屋のドアが開いた。
「あら、起きてたの?」
いつも下りてくる時間に顔を見せない私を、母は寝坊していると勘違いしたらしく、起こしに来てくれた。
「ごめん、ちょっと支度に手間取って」
「それぐらい、前の日に済ましておきなさい」
「勉強が終わったらしようと思ったんだけど、いつの間にか寝てて」
「早くしないと、ご飯を食べる時間がなくなるわよ」
お母さん、特に怒った素振りを見せずに階段を下りていく。
そうだ、家族のために学校へ行こう。
不登校になったら家族を困らせ、悲しませてしまう。そうならないように、家族のために学校に行こう。
これなら、友達に優劣をつけないで済む。
決断を下しても、言い訳がましい結論なのでそれほど気分が優れないが、せっかく下した決断だ。動かなくては意味がない。
私は鞄を持ち、階段を下りる。キッチンからは卵焼きのいい匂いが漂ってくる。
「あっ、お母さん。今日は朝ごはんいいや」
朝食を準備してくれたお母さんに申し訳ない気分で告げると、お母さんは心配そうに私の体調を聞いていた。
その問いを曖昧な返答で誤魔化し、家を出る。
外に出ると、多少気分が良くなった。舞との電話以降、私の部屋は嫌な空気で充満しているような感じだったが、外は開放的でいい。
通学は一人でしているので、気分が楽だった。カオルや舞と一緒だったら気まずかっただろうし、気まずさを避けるために今日だけ一人で通学すると、後々不穏な空気になってしまう。
るんが一緒だったら、相談に乗ってもらえて…いや、相談に乗ってもらえなくても、不安ぐらいを聞いてもらえて良かったかもしれないな。
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