「文化祭で、劇をやらない?」
うちの高校には演劇部がなく、吹奏楽部もないので、文化祭の時に体育館の使用許可を得るのは大して難しくない。
「なるほど、劇の練習ならお金がかからないし、高校最後の良い思い出になるね」
「私、人前でお芝居するのはちょっと」
カオルは文句なく賛成だけれど、引っ込み思案のるんは乗り気じゃない。
「全てを手作りでやるの。劇中の音楽もCDを使わないで、ピアノ演奏にする。その役がるんってのはどうかな?」
「演技をしなくていいなら、いいよ」
「そうなると、どんな劇をやるかだね」
俄然やる気を出したカオルが、机の上にノートを広げる。
「やっぱり、やるとしたらシェイクスピアとかかな? 名前をよく聞くだけで、肝心の内容は知らないけど」
と言うるんと同様に、私もシェイクスピアの話をまったく知らない。そもそも、私は活字を読むのが苦手だ。
「シェイクスピアの話を劇にするとしたら、登場キャラが多いから人数集めが大変だよ」
どうやら、カオルは知っているようだ。
「四十人いても足りない?」
「それだけいれば足りるけど、劇はクラスの催し物としてはできないよ。みんな受験を控えてるから、文化祭は息抜き程度に考えてる。何日も稽古が必要な劇をすると言ったら、誰も賛成しないよ」
なるほど、遊ぶのが好きな舞が、誘いを断ってまで勉強しているんだ。三年で文化祭に力を入れるクラスは少ないだろう。
「そうなると、自分達で演劇部を立ち上げなくっちゃいけないんだ」
クラスの催し物と、部の催し物以外の催し物は禁止されている。劇をしたいのなら演劇部を作る以外に方法はなさそうだ。
「部を作るには、どうすればいいんだろう? 漫画とかだと、五人の部員と顧問の先生がいれば大丈夫なケースが多いけど」
「そうだね」
部を作るのにはどうすればいいか悩んでいると、るんが思いがけないことを言ってきた。
「そうなると、問題は顧問の先生だね」
「部員の数だって問題だよ」
正式に聞いたわけではないので確かなことは言えないが、部を立ち上げるには五人の部員が必要だ。受験勉強に躍起になっている舞がこの企画に参加するとは思えないので、現状は三人しかいない。
「舞と慎弥に頼めば、部員になってくれるよ。最初から幽霊部員になってくれって頼めば、名前ぐらい貸してくれるはず」
そっか、その手があったか。慎弥君のことはよく知らないが、舞はどの部にも所属していない。部の掛け持ちにはならないので、名前を貸すのぐらい了承してくれるだろう。
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