「そうかもしれない」
「受験勉強ばかりしてて、友達だった子が友達じゃなくなっていくに連れて私の不安は増えていったの。その時は分からなかったけど、無意識で怖がってたんだと思う。同年代の仲間が近くにいないのを。
こっちに来て、円佳、るん、舞って本当の意味で友人と呼べる人が出来るに連れて、不安はなくなっていった。これから先、困難な場面に遭遇しても手を取り合っていける仲間だと思えたし、困っている時は助けになりたいって思ったから。
円佳は、朱理さんの両親が亡くなって、朱理さんの仕事が見つからなくても、嫌な顔一つせずに喜んで救いの手を差し伸べるよ。ううん、それ以前に、両親が健在の状態でも、仕事が見つかってる状態でも、朱理さんが窮地に立たされたら、円佳は助けてくれる」
「そうかな?」
「そうだよ。それに、朱理さんが私を嫌っていたとしても、私は円佳と一緒に手を差し伸べるよ。私の中ではもう友達だから」
「ありがとう」
「出来れば、友達同士になりたいけど」
足音が聞こえ、その足音は僅かだけれど遠ざかっていった。
「何をしているの!」
ガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえ、すぐに塚本先生の怒鳴り声が聞こえた。
外の様子が気になるので、カーテンを少しだけ開けて外を覗いてみた。こっちのベッドには集中がいっていないだろうから、目立つほど開けなければ気付かれないだろう。
覗き見た私は、驚きで声が出そうになったが、幸い声は出なかった。声が出るほど冷静ではなく、声が出ないほど驚いたらしい。
カオルが、ハサミを握っていた。塚本先生の制止を聞かず、カオルはいつもの明るい表情でハサミを持っていた。
見えないけれど、朱理も困惑しているだろう。
一人冷静なカオルが、持っていたハサミを軽く投げた。カオルの手から離れたハサミは緩やかに放物線を描き、朱理の転がるベッドに飛んでいく。
これ以上覗くのは、やめておいた方が良いだろう。塚本先生の机の方を覗くのは、カーテンを軽く開けるだけで覗けるが、すぐ横にある朱理のベッドを覗くにはカーテンをかなり開けなくてはならない。開けずに下を捲ったとしてもかなり目立ってしまう。
カーテンを閉め、耳を集中させる。塚本先生の方から足音が近付いてきて、私のベッドのすぐ横、朱理のベッド付近で止まった。
「怖くなったら、遠慮なくそれで私を切っていいから、朱理さんに触れさせて」
おそらく、朱理は投げられたハサミを持っているのだろう。カオルが優しい口調で懇願する。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!