足を踏み出して

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#05

公開日時: 2022年1月16日(日) 07:59
文字数:1,023

 両親は進学するものだと思い込んでいるので、私は両親の意思のまま進学するのだろう。自分の意思がなく、はっきりとした考えのない曖昧なビジョンだ。


「るんは、勉強しなくていいの?」


 舞と同じように東京の大学を目指するんに、意地悪な問いをしてしまう。


「私は平気。大学に行くのが目的じゃなくて、東京に行くのが目的だから。今の学力で東京の大学に行ければそれに越したことはないけど、別に落ちたってかまわないし」


「落ちたら、彼と離れ離れになっちゃうじゃん」


「落ちても、東京の予備校に行くから」


 るんにははっきりとした目標があるが、それは決して誇れる目標ではなかった。


 まぁ、何も考えず流されるまま流されている私よりかはましか。


「と言うわけで、私達は受験と関係なく、最後まで高校生活を満喫しようと誓い合ったのだよ」


 カオルが、るんの肩を抱き寄せ宣言する。こういったノリが得意ではないるんは頬を赤らめている。


「円佳はどう? 舞みたいに勉強派?」


 勉強は、するに越したことはないが、勉強に時間を割きすぎて、大切な友と過ごす時間が削られるとなると話は別である。


 今の楽しみを取るか、近い未来へのたくわえを取るかの二者択一だ。


「私は…」


 私には、将来の夢や目標がない。将来の為に頑張ろうと思っても、何を頑張ればいいのか分からない。


「高校生活を満喫したい」


「円佳なら、そう言ってくれると思ったよ」


 本音は、朱理を含めて高校生活を満喫したかった。朱理が悲観的な考えをしてしまうのは、楽しかったと言える思い出がないから…もしくは、楽しかった思い出以上に辛い思い出があり、楽しかった思い出を上書きで消してしまっているように思える。


 朱理の人生観を変えるには、辛かった思い出以上の楽しい思い出が必要である。


 その思い出を作る絶好の時期は、高校時代、つまり今だ。


 以前何かのテレビで言っていた。高校時代の一日と、大人になってからの一日では、重みが違うと。


 残り少なくなった貴重な一日一日を大切に使い、思い出を作りたい。


「遊びに行くのはいいけど、予算がないよ」


 るんが、財布を広げ嘆く。


「お金がなくたって、遊べるよ。校庭で体を動かすとか」


「え~ 運動は苦手だな」


「苦手で嫌いなの?」


「嫌いじゃないけど、疲れるから」


「疲れたって、いいじゃん。私は、みんなで遊べればそれだけで楽しいんだ」


 確かに、私も今月はお金に余裕がなく、るんと同様に運動は苦手だけれど、スピード感のあるスポーツはやっていて楽しいが、私にも主張があった。

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