両親は進学するものだと思い込んでいるので、私は両親の意思のまま進学するのだろう。自分の意思がなく、はっきりとした考えのない曖昧なビジョンだ。
「るんは、勉強しなくていいの?」
舞と同じように東京の大学を目指するんに、意地悪な問いをしてしまう。
「私は平気。大学に行くのが目的じゃなくて、東京に行くのが目的だから。今の学力で東京の大学に行ければそれに越したことはないけど、別に落ちたってかまわないし」
「落ちたら、彼と離れ離れになっちゃうじゃん」
「落ちても、東京の予備校に行くから」
るんにははっきりとした目標があるが、それは決して誇れる目標ではなかった。
まぁ、何も考えず流されるまま流されている私よりかはましか。
「と言うわけで、私達は受験と関係なく、最後まで高校生活を満喫しようと誓い合ったのだよ」
カオルが、るんの肩を抱き寄せ宣言する。こういったノリが得意ではないるんは頬を赤らめている。
「円佳はどう? 舞みたいに勉強派?」
勉強は、するに越したことはないが、勉強に時間を割きすぎて、大切な友と過ごす時間が削られるとなると話は別である。
今の楽しみを取るか、近い未来へのたくわえを取るかの二者択一だ。
「私は…」
私には、将来の夢や目標がない。将来の為に頑張ろうと思っても、何を頑張ればいいのか分からない。
「高校生活を満喫したい」
「円佳なら、そう言ってくれると思ったよ」
本音は、朱理を含めて高校生活を満喫したかった。朱理が悲観的な考えをしてしまうのは、楽しかったと言える思い出がないから…もしくは、楽しかった思い出以上に辛い思い出があり、楽しかった思い出を上書きで消してしまっているように思える。
朱理の人生観を変えるには、辛かった思い出以上の楽しい思い出が必要である。
その思い出を作る絶好の時期は、高校時代、つまり今だ。
以前何かのテレビで言っていた。高校時代の一日と、大人になってからの一日では、重みが違うと。
残り少なくなった貴重な一日一日を大切に使い、思い出を作りたい。
「遊びに行くのはいいけど、予算がないよ」
るんが、財布を広げ嘆く。
「お金がなくたって、遊べるよ。校庭で体を動かすとか」
「え~ 運動は苦手だな」
「苦手で嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、疲れるから」
「疲れたって、いいじゃん。私は、みんなで遊べればそれだけで楽しいんだ」
確かに、私も今月はお金に余裕がなく、るんと同様に運動は苦手だけれど、スピード感のあるスポーツはやっていて楽しいが、私にも主張があった。
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