リストは体を起こし冷たいジュースで喉を潤すと、机についてノートを開いた。
ノートには、乱暴に書かれた落書きが埋め尽くされていた。
一ページ一ページ順番に描かれているのではなく、適当に開かれたページの、開いたスペースを埋めるように落書きが記されている。
整理されていないノートを捲り、何も描かれていないページがないか探し、半分ほどノートを捲ったところで二ページだけ、見開きのように何も書かれていないページを発見した。
まるで、今日、絵を描くために残っていたようなページに、リストは運命を感じながら慎重に絵を描く。
落書きのように大雑把ではなく、動物を撫でるように優しくペンを走らせる。
絵は、思うように捗らなかった。
思い入れが強い分、妥協が出来ずに、書き直しを繰り返してしまう。
時間を忘れ絵に没頭していた。こんなにも一つのことに集中するのは生まれて初めてかもしれない。
絵と格闘していると、玄関が開閉する音が聞こえた。
時間を確認すると、絵を描き始めて一時間と少しが経過していた。
玄関から聞こえる音にリストは体を震わせ、震えを止める為に手を心臓に当てて心を落ち着かせる。
ノートをゆっくりと閉じて、部屋を出る。
部屋を出たリストは、外側から南京錠で鍵をかける。これで、自分以外はこの部屋に入れない。
リビングでは、母が疲れた表情で着替えをしていた。
疲れた表情の母を見て顔をしかめてしまいそうなのを堪え、リストは声が震えないように『おかえり』と普段どおりを心がけて声をかける。
「ただいま。今日の晩御飯はなに?」
母の返事を聞くと、リストの心を支配していた不安は解消され、明るく今日の献立を伝えられた。
「ざっとシャワーを浴びてくるから、その間にご飯の準備をしててくれる?」
「うん、私はお腹が空いてないから、ざっとじゃなくて、ゆっくりシャワーを浴びていいよ」
「私が、お腹ペコペコなの」
母は、お腹をさすり、おどけて見せる。
「それじゃ、仕方ないね」
母が浴室に移動したのを確認すると、リストはキッチンに移動し、作っておいた料理を温め直した。
おかずをレンジで、味噌汁をコンロで温めテーブルに運ぶ。全て温め終わるのは、母がシャワーを浴びている時間より若干早かった。
「ごめん、待たせちゃったね」
母が、乱暴に髪を拭きながら軽く謝る。
「さっきも言ったけど、私は大丈夫。問題はママのお腹」
「それが、問題なのよね。シャワーを浴びている最中も、お腹の虫が『グーグー』鳴っちゃって」
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