「そう思っている内は、この手を離しませんよ」
女性は、笑顔で少女の手首を掴んでいる手を上げる。
「私も、一度自殺を考えた経験があるんです。行動に移せる度胸はなかったけど。それに、私の友達で自殺未遂してる子もいるから、こう思うんです。
自殺なんて、馬鹿らしいって。
どうせ、いつか死ぬんだから、わざわざ自分で死ななくてもいいかなって」
「それは自殺をした後、自殺未遂の後に幸せが訪れたらですよ。私は何度も自殺をしてきたけど、その後に訪れたのは数日の平穏だけ。すぐに嫌な日常に戻ってしまう」
「私は、切っ掛けになりませんか? 幸せになる切っ掛けに」
「どうだろう? 分からない」
「私は、あなたの力になりたい」
女性の言葉を聞き、少女は言葉を詰まらせながら答える。
「ありがとう」
涙声でこぼれたのは、本心だった。
「泣かないで」
好意的な言葉を聞き、すぐに飛び降りる心配はなくなったと確信した女性は、少女の手首から手を離し、ポケットからハンカチを取り出し少女の涙を拭ってあげようとした。
「触らないで!」
優しく伸びてくる女性の手を、少女は力いっぱい振り払った。その後に少女は何度も『ごめんなさい』と頭を下げる。
「ううん、こっちこそごめんなさい。涙ぐらい、自分で拭けるよね」
女性は、振り払われた手に僅かな痛みを感じながら、その手で少女の頭を撫でた。
涙を拭くのは全力で拒否をしたが、頭を撫でるのは受け入れてくれる。
頭を撫でて、少女が帽子をかぶっているのに初めて気がついたが、かまわず頭を撫でる。
その行動に対して少女は拒絶せず、寧ろ喜ぶように頬を緩めた。
頬を緩めたが、目の見えない女性は、表情の変化に気付けない。
女性は少女を怖がらせないように気を遣いながら、少女の横に腰を下ろし、欄干を背もたれにする。
「あなた、名前は?」
女性が問うと、立っていた少女は女性の横に腰を下ろし、申し訳なさそうに返事をする。
「それは、秘密でいいですか? 私、ひきこもりがちで、人に自分の事を知られるのが得意でないんです」
「じゃあ、私の目が見えないから、こうして話していられるの?」
「正直に言うと、そうです」
「そうなんだ。良かった、あなたのおかげで、目が見えなくなって良かったと思えたよ」
女性は、おどけながら答え、言葉を続ける。
「私の名前は、森永円佳。二十歳。こんな状態だから無職だけど、小説とかの原作家を目指してるの」
「原作家?」
「実際は、そんな言い方をするのか分からないし、そんな職業があるのか分からないけど、私はそう呼んでるの。
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