「ばれないようにやってたから、私の暴力は大して問題にならなかったけど、将来の不安が募れば募るほど、暴力が過激になっていったの。
ある日、自分の意思が欠落していた私は、軽く気に入らなかった一人の男子生徒を階段から突き落として、大怪我を負わせてしまった。父さんの上司の子供だと知らずに。
その日以来、私は学校に行かなくなった。後になって自分のしたことの重大さに気がついて、私は人と関わってはいけないと思った。
三日後、犯人が私だってばれて、父さんは左遷になってここに来たの。
それでも父さんは、怒らないで心配してくれた。仕事にかまけていた自分を許してくれって謝りもした。
私は思い切って、父さんに悩みを全部打ち明けたんだ。そしたら父さんは『過去は気にするな。将来は気にするな。今を楽しんで、今よりほんの少し先の未来だけ考えて生きろ』てアドバイスをくれたの。
それで私は、ここに転校してきたのは良い切っ掛けになるんじゃないかって前向きに考えて、また学校に通うようになったんだ」
確かに、編入の理由は家庭の事情だと言っていたけれど、こんな経緯だとは思いもしなかった。
高校三年の六月という、変わった編入時期にはやむをえない理由があったようだ。
「それから私は、将来のことをばくぜんとしか考えないようになったんだ。悔やんでしまうような過去を将来の為に残さないように、今を生きて、今よりほんの少しだけ先の未来を考えて生きようって。
今、私が考えてる未来はこう。大学に行かないで、家計を少しでも楽にするために就職する。家計が苦しくなったのは私に責任があるんだから、父さんに貸しを返さないとって。
ただ、就職しようって考えてるだけで、どこに就職しようなんて考えてないし、就職した先の未来なんて考えてない。それより先のことを考えると、不安になっちゃうから。
だから、これから円佳と遊ぼうとか、るんとご飯を食べに行こうとか、舞をからかおうとか、楽しいことを考える余裕があるんだ」
ただ、お気楽に、楽しいのが大好きだから今を楽しむと言っていると思っていた。軽い言葉に聞こえていた『今を楽しむ』という言葉が、重たく、良い言葉に聞こえてくる。
「でも、将来のことは気にしちゃう。仕事先が見つからなかったらどうしようとか…両親は高齢出産で私を産んだから、両親が亡くなって、仕事がなかったら、どうすればいいか分からない」
「それはきっと、同年代に友達がいないから不安になるんだよ。円佳は朱理さんを友達だと思ってるけど、朱理さんは友達ではなく、大切な人、傷つけてはいけない人だと思ってるんじゃない?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!