「まぁ、私でも嫌な店員がいて、会計に行きづらい時があるから、朱理なら尚更か」
「完全にひきこもりになっちゃったら、私達だけでは手がつけられなくなるから、完全じゃない今の内に何とかしないと」
完全にひきこもってしまったら、どうしても朱理の家族を巻き込んでしまう。
そういえば、朱理の家族は、朱理のことをどう見ているのだろう?
朱理は、家の中では普通に学校に通っている演技をしているのかもしれない。
そうなると、今の内に朱理を改善できるのは、同じ学校に通い、友人と呼べるぐらい仲が深まった私達だけである。
◇
今日の稽古は、いつにも増して気合が入っていた。本番前の一番大切な日を明日に控え、自ずと気合が入っている。
通しで稽古をし、場面に合った音楽がキーボードから流れる。ピアノを用意出来なかったが、舞が友人の兄から使わなくなったキーボードを調達してくれたのだ。
本格的な物とは言えないが、オモチャと呼ぶには立派過ぎるキーボード。私が弾いたら騒音にしかならないが、るんが弾くと綺麗な音色を奏でている。
通しで稽古をし、本番さながらに演技を終える。今まで通しで劇を終わらせたことがなかったので分からなかったが、この劇は三十分ほどで終わるようだ。
「いよいよ、明日だね。合唱部へのお披露目」
キーボードの電源を切りながら、るんが言う。るんは大して緊張していないようだ。
そう、明日は合唱部へのお披露目である。舞が合唱部にアポを取り、明日の朝、体育館で通しの稽古が行われることになった。
劇を通しで見てもらい、どこでどんな合唱をするか決めてもらうのだ。
「今の出来なら、充分でしょう」
余裕綽々に言う舞いに対し、すかさずカオルが『今の出来ならね』と釘を刺す。
「私、朝弱いから不安だな」
体育館は、大体の時間運動部が使用している為、明日は運動部が来る前の早朝に稽古をしなくてはならない。
先生に何度も頼み、いつもより早く門を開けてもらえるようになったのは明日一日だけなので、最初で最後の実践練習になる。
朝に弱い私は、良い演技をすると目標を掲げる前に、遅刻しないようにと目標を立てないといけない。
文化祭が始まる十月十日まで、もう一週間とちょっとしかない。
明日の稽古はとても大切なものだ。
そう考えると、朱理が劇に参加するのは、もう無理だろう。合唱部にお披露目した後に、キャストが四人に代わってしまったら、予定が変わってしまう。
朱理が劇に参加するとしたら、今日がタイムリミットである。今日劇に参加すると決意しても、明日までに通しで演じ切れるようにならないといけない。
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