簡単に言うと、私はお話しを考えたりできるけど、小説とかみたいに形に出来ないんだ。
私の親友でカオルって子は、私の反対でアイデアがあれば小説が書けるけど、何もない状態では話しが考えられないの。
だから、私が話を考えて、カオルが形にする体制で一つの小説を作ってるの」
「凄いな」
「全然凄くないよ。何も賞に掠ってないんだから」
「それは、カオルって人が書く文に問題があるのかもしれませんよ」
「そっか、そうかもしれないね。カオルが悪いんだ」
円佳が笑いながら言うと、釣られて少女も笑みを浮かべた。
少女が、自分の笑顔を確かめるように頬を触る。
自然に笑えた自分を喜ぶように、笑顔を確認した少女はもう一度微笑んだ。
「あのさ、名前を教えてくれなくていいから、呼び名を決めよう。あなたって呼ぶのは、どうもしっくりこないんだ」
返事をするのを忘れ、少女は考えた。
そんな少女に対し、円佳は返事を急かさず、二人でいられる時間を大切にするように返事を待つ。
「森永さんが今書いてる…て言うか、考えてるお話しの主人公は、なんて名前なんですか?」
「リストっていう、お姫様のお話」
「なら、リストで。私に丁度いいし」
少女は、ためらい傷で埋め尽くされた自分の手首を見て提案する。
「リストって、響き的に可愛いからいいかもね。響き的に可愛いから、主人公の名前にしたんだけど」
「その、リストってキャラが主人公のお話、聞かせてくれませんか?」
「うん、いいよ。まだ全部出来てないから、途中までだけど」
円佳は、子供をあやすように自分が考えたお話を聞かせ。リストは、その話を想像し話しに入り込んだ。
リストと呼ばれるようになった少女は、物語に出てくるリストというキャラを思い浮かべる際、自分の姿で物語を想像し、どんどん話しに入り込んでいった。
話に夢中になる二人にとって、時折歩道橋を通過する人々の視線は大して気にならず、時間が経つのを忘れ話に没頭していた。
♢
九月十八日
リストは、暗闇の中で目を覚まし、枕元にあるスタンドをつけて時間を確認した。
時刻は、午前十時半。平日にリストの年代が起きるには遅い時間だが、登校拒否をしているリストにとっては、いつもと同じ起床時間である。
昨晩から飲み残してある、温くなっているペットボトルのジュースで喉を潤し、パソコンを起動させる。
しばらくネットを楽しんだ後、手軽に遊べるテーブルゲームをコンピュータ相手に楽しむ。
オセロ、将棋、五並べ等、ありとあらゆるテーブルゲームを得意とするリストは、いつも最上級にレベルを上げて、コンピュータと戦う。
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