「替えようにも、替えるセットすらないけどね」
自分から案を出すのが苦手なるんだが、中々鋭く問題点を指摘する。
そういった致命的な問題以前に、私は一つ気になるところがあった。
「この話って、ロマンティックなの?」
ロマンティックな話がいいから、深見池の話にしようと言った割には、ロマンの欠片もない気がする。ただ、竜神様の脅威を訴えるだけの話にしか聞こえない。
「その辺は、私の腕で」
脚本担当のカオルが、得意気に言った。
「もしかして、話しの中にありもしない話しを入れるの?」
「そういう言い方は良くないな。話をより面白くする為に、アレンジするの、脚色よ脚色」
アレンジ、脚色。物はいいようである。それに、今回の場合、脚色はちょっと意味が違う気がする。
「深見池にまつわる話は、これ以外にもまだ沢山あるのよ。その沢山の話の中に、私の描く物と同じものがあるかもしれないじゃない」
と、アレンジを加える正当性をアピールしながら、脚本作りに意気込んでいる。
話のベースは深見池に決まり、私達は各々違う役割を担うことになった。
カオルは役者と脚本かかり。
るんはピアノ演奏だけではなく、その場面にあった音楽を選曲する係。
残った私は、役者と演出をすることになってしまった。特別秀でた能力がない私は、どうしても残り物を任されてしまう。
残り物には福があると言うけれど、今回はその言葉通りにはなっていない。演出を担当するとなると、先ほど上がった村人役や大地に変わるシーンの問題を考えなくてはならない。
この二つの問題を演出だけで誤魔化せるのだろうかと、弱音が心を支配した。
◇
放課後、私達は三人揃って職員室に訪れていた。
今は、るんと私達の担任である花澤先生が交渉を続けている。
カオルは勉強が出来るが、結構開放的で先生受けは良くも悪くもない。
るんは引っ込み思案の性格が影響し、先生達には典型的な優等生として見られている。
先生受けの良いるんが交渉すれば、話はスムーズに行くだろうと考えたのだが、交渉は難航していた。
問題は、私達の目的が文化祭で劇を行いたいので、演劇部を立ち上げたいという短期的な点である。
すぐに廃部になるような部を設立させるのは難しく、立ち上げるには次の代にバトンを引き継がせるのを前提に立ち上げろと言うことだ。
私達三人と、名前を貸してくれる慎弥君は三年生。れんちゃんだけが唯一の二年なので、私達が卒業してしまったら、部員が一人になってしまう。
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