足を踏み出して

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#83

公開日時: 2022年1月30日(日) 22:17
更新日時: 2022年1月30日(日) 22:18
文字数:1,027

「怒らないよ」


 円佳は、優しく微笑む。


「見た目は…歳の割りに幼いなって」


「あちゃー 高校時代と何も変わってないな。ずっと童顔で、顔が幼ければスタイルも幼くて、胸が小さいわ、くびれがないわで」


「それはそれで、可愛いじゃないですか」


「余裕なコメントね。さては、私よりスタイルがいいな」


「さぁ、どうでしょう。私はまだ発展途上だから、これからどうなるか」


「はぁ、十代を終えた私には、目覚しい成長が期待できないよ」


 スタイルを良くするのは諦めたと伝えるように、円佳は二枚目のクッキーをかじった。


「ところで、答えたくなかったら答えなくていいけど、リストは母の事をどう呼んでるの?」


「ママって呼んでますよ」


「なんだ、私と同じじゃん」


 円佳は、安堵の表情を浮かべる。


「なに、安心してるんですか?」


「私より大人っぽく呼んでると思ったから。お母さんとか、母上とか」


「今時、母上なんて呼ぶ人いませんよ」


 呆れたように呟き。リストもクッキーを一つ手に取る。


「ママのこと、好き?」


「好きですよ。大好きです」


「そんな、熱弁しなくてもいいよ」


「それぐらい、好きなんです。だって、女手一つで私をここまで育ててくれたんだから。なのに、私がこんなで申し訳がない」


「辛いなら、無理にママの話をしなくていいよ。これは私の弱さかもしれないけど、私は笑顔のリストを見ていたいから」


 と言った後、円佳は『見えないから、笑顔のリストと接していたいと言った方が正確かな』と、場を和ませるように笑った。


「辛いけど、不思議と円佳さんには話したくなるんです。話してると辛いけど、話し終わったら気が楽になるから。けど、迷惑ですよね。もやもやの捌け口にされるのは」


「ううん、リストのことが知れるのは嬉しいよ。リストが望むなら、もっとリストのことを知りたいと思う。


 でも、無理はしないでね。リストが話したいと思ったら話せばいい。私が問いかけても、話したくない話題だったら無視したっていい。問いに答えてくれなかったからって、私がリストを嫌うことは絶対にないから」


「はい、ありがとうございます」


 そう答えるリストの声は、涙声だった。


「リストは、涙もろいね」


「泣いてませんよ」


 無理をして平静を装うとするが、想いとは裏腹に声が震えてしまう。


「初めて会った時も、リストは泣いたよね」


「だから、今は泣いてませんって」


 リストの強がりを聞き流し、円佳は自分のペースで話を進める。


「大分経ったように感じるけど、私達って出会って一週間ぐらいなんだよね」


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