「怒らないよ」
円佳は、優しく微笑む。
「見た目は…歳の割りに幼いなって」
「あちゃー 高校時代と何も変わってないな。ずっと童顔で、顔が幼ければスタイルも幼くて、胸が小さいわ、くびれがないわで」
「それはそれで、可愛いじゃないですか」
「余裕なコメントね。さては、私よりスタイルがいいな」
「さぁ、どうでしょう。私はまだ発展途上だから、これからどうなるか」
「はぁ、十代を終えた私には、目覚しい成長が期待できないよ」
スタイルを良くするのは諦めたと伝えるように、円佳は二枚目のクッキーをかじった。
「ところで、答えたくなかったら答えなくていいけど、リストは母の事をどう呼んでるの?」
「ママって呼んでますよ」
「なんだ、私と同じじゃん」
円佳は、安堵の表情を浮かべる。
「なに、安心してるんですか?」
「私より大人っぽく呼んでると思ったから。お母さんとか、母上とか」
「今時、母上なんて呼ぶ人いませんよ」
呆れたように呟き。リストもクッキーを一つ手に取る。
「ママのこと、好き?」
「好きですよ。大好きです」
「そんな、熱弁しなくてもいいよ」
「それぐらい、好きなんです。だって、女手一つで私をここまで育ててくれたんだから。なのに、私がこんなで申し訳がない」
「辛いなら、無理にママの話をしなくていいよ。これは私の弱さかもしれないけど、私は笑顔のリストを見ていたいから」
と言った後、円佳は『見えないから、笑顔のリストと接していたいと言った方が正確かな』と、場を和ませるように笑った。
「辛いけど、不思議と円佳さんには話したくなるんです。話してると辛いけど、話し終わったら気が楽になるから。けど、迷惑ですよね。もやもやの捌け口にされるのは」
「ううん、リストのことが知れるのは嬉しいよ。リストが望むなら、もっとリストのことを知りたいと思う。
でも、無理はしないでね。リストが話したいと思ったら話せばいい。私が問いかけても、話したくない話題だったら無視したっていい。問いに答えてくれなかったからって、私がリストを嫌うことは絶対にないから」
「はい、ありがとうございます」
そう答えるリストの声は、涙声だった。
「リストは、涙もろいね」
「泣いてませんよ」
無理をして平静を装うとするが、想いとは裏腹に声が震えてしまう。
「初めて会った時も、リストは泣いたよね」
「だから、今は泣いてませんって」
リストの強がりを聞き流し、円佳は自分のペースで話を進める。
「大分経ったように感じるけど、私達って出会って一週間ぐらいなんだよね」
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