暗闇の中に、ぽつんと赤い点が現れたのである。
針の穴より小さいけれど、幻ではない。現に今も、はっきりと見えている。
「何か見えますか?」
「赤い点が見えます」
盲目には、大きく分けて二つあり、全盲の人は極少数らしい。大体の人が今の私みたいに、光を当てると赤い点などが見えるらしい。
赤い点が見えたから、治る見込みがあるのではと一瞬期待してしまったので、肩を落としてしまう。光を確認する赤い点が見えたからところで、全盲とは大して変わりがない。そう思えてならないのだ。
結果はどうあれ、包帯が取れたので退院となった。タクシーで家まで戻り、お母さんと手を繋ぎ家に上がる。
「私、自分の部屋に行くね」
「何をしに?」
「何って、別に、何もしないよ。しいて言えば音楽を聴くぐらい。それしか、することがないから」
「そう」
お母さんは、不安そうに呟く。
私は一度も引越しをしたことがなく、この家でずっと育ってきた。歩幅などで大体の距離感は掴めそうなので、家の中でなら慎重に進めば一人で動けると思う。
「ついていこうか?」
「これぐらいなら、大丈夫だと思う」
そう言ってみたものの、いざ一人で歩いてみると、家の造りが分かっていても足元が不安定に感じた。
暗闇に向かい足を踏み出さないといけないのだ。勝手の分かっている家でも度胸がいる。
目の代わりとなる杖を持っていない状態なので、壁に手をつきながら歩み続ける。壁に寄り添うようにして歩くと、多少は恐怖が和らいだ。
階段に右足を乗せ、右足を乗せた後、同じ段に左足を乗せる。その動作を繰り返し階段を上り終えたときには、私にはかなりの疲労がたまっていた。
階段を上り終え自室に入ると、私はここでも壁に寄り添いながら進み、ベッドの場所まで移動する。
ベッドに腰を下ろすと、体が一気に熱くなり、軽く眩暈を覚えた。
相当、気を張っていたらしい。
自分の部屋に移動するだけで、これだけ神経をすり減らしていたら、これからの私は大丈夫なのだろうか? この、暗闇だけの世界で、挫けず生き続けられるのだろうか?
一瞬だけ、衝動的に自殺という選択肢が頭に浮かんだ。
そっか、さっきお母さんが不安そうにしていたのは、私が一人で自分の部屋に戻れるかじゃなくて、自殺をしてしまうのではないかと不安になっていたんだ。
そんな心配をさせてしまうぐらい、私の表情は暗く淀んでいたのだろう。明るく振舞っているつもりでも、表情には不安や失意が表れていたようだ。
壁を頼りに、時には、床にへばりつくように移動してCDをセットして、音楽をかけた。
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