「さてと……」
「あの三人のことだけど……」
準備を終えた哀たちに愛が話しかける。愁が首を振る。
「ああ、それでしたら大丈夫です」
「え? で、でもどんな戦い方をするか知っておいた方が……」
「向こうも知らないでしょう。その方が公平です」
「出来るだけフェアな条件で倒す!」
「ええ……ま、まあ、あまり無理はしないでね」
意気込む哀に愛は優しく声をかける。そして、互いの隊が顔を合わせる。
「準備は良いな? それでは……始め!」
「はあっ!」
御剣の掛け声と同時に哀が億葉に飛びかかる。億葉が面食らう。
「こ、こっちに来た!」
「そんな馬鹿でかいリュックを背負って、まともに動けるんですか⁉」
「ふん!」
哀の攻撃を千景が受け止める。哀が舌打ちする。
「ちっ!」
「狙いを億葉に定めるのは読めていたぜ!」
「腕を止めたくらいで良い気になるな!」
「むっ⁉」
棒から飛んだ玉が弧を描いて千景を狙う。
「『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」
「なにっ⁉」
億葉の繰り出したマジックハンドが玉を弾く。千景が笑う。
「ナイスだ、億葉! そらっ!」
「くっ!」
千景の振り下ろしたパンチを哀が後方に飛んでかわす。千景が感心する。
「へえ、よくかわしたじゃねえか……それにしてもけん玉か、なかなかトリッキーだな」
「はっ!」
「なんの!」
「なっ⁉」
万夜に向かってヨーヨー攻撃を繰り出した愁だったが、万夜の振るう鞭に弾かれる。
「妹さんはヨーヨーですか!」
「鞭とは!」
万夜と愁はお互いの武器を確認し、一旦距離を取る。万夜は愁と哀を見て考えを巡らす。
(けん玉とヨーヨーとは……少々意表を突かれましたが、分かってしまえばそれほどの脅威ではありません。トリッキーな軌道にさえ気を付ければ大丈夫でしょう。どちらもリーチが精々中距離くらい……わたくしの鞭や億葉さんの珍妙な発明品ならば、そちらの面でも優位に立てそうですね……)
「おらおらっ!」
万夜の考えている横から千景が果敢に飛びかかる。万夜が驚く。
「な、なにを! わざわざ飛び込むなど!」
「意表を突くんだよ!」
「~~! 仕方ありませんわね!」
千景に万夜が続く。哀たちが身構える横で愛が叫ぶ。
「……お貸し給へ!」
「ん⁉」
「こ、これは……⁉」
千景たちが驚いて足を止める。千景と万夜の式神が二体ずつ立ちはだかったからである。
「ご自分を攻撃するのは抵抗があるでしょう⁉」
「ちっ、愛め……」
「た、確かにあまり良い気分はしませんわね……」
「『一億個の発明! その579! 強化フレイムスプレー!』」
「はい⁉」
億葉がスプレーを使い、そこから噴き出した火が式神をあっという間に燃やす。
「ふっふっふ! 形代を用いる愛殿の術には火が有効! 対策はバッチリであります!」
胸を張る億葉に対し、千景と万夜が振り返って声を上げる。
「あります!じゃねえよ! 億葉!」
「す、少しは躊躇うということが無いのですか⁉」
「お二人とも! そんなことより突破口が開けましたぞ!」
「ちっ! おらあ!」
「億葉さん! 後で覚えてらっしゃい!」
「来るか! そら!」
「せい!」
「甘えよ!」
「むっ!」
「なんのこれしき!」
「むう!」
哀と愁の繰り出した攻撃は鋭さがあったが、千景と万夜はそれをあっさりとかわし、二人の懐に入る。愛が心の中で舌打ちをする。
(二人の攻撃スピードやセンスは決して悪くない! ただ、トリッキーな手の内がバレてしまうと分が悪い! やはり経験では千景さんたちが勝る!)
「もらった!」
「お終いです!」
千景たちが拳と鞭を振りかざす。愁がふっと笑う。
「……それで勝ったおつもりですか?」
「なっ⁉」
「そらそら!」
「お覚悟!」
哀がマシンガンを、愁がバズーカを取り出し、発射する。
「どわっ⁉」
「きゃっ⁉」
銃撃を喰らった千景と万夜が倒れ込む。愛が唖然とする。
「マ、マシンガンとバズーカ……?」
「アタシらゲーム配信もやっているんで」
「もちろん、模擬戦用にゴム弾に変えてあります。とはいえ、かなり痛いと思いますが……」
哀と愁が振り返って笑顔を浮かべる。
「ち、ちっくしょう……」
「ほう……まだ動けるとは、流石ですね。とどめといかせて頂きます……」
愁と哀が銃口を起き上がろうとする千景たちに向ける。哀が叫ぶ。
「これでアタシらが本隊だ!」
「『一億個の発明! その182! ぶっぱなしボム!』」
「うおっ⁉」
億葉が双方の間に爆弾を投げ込むと、爆風が発生して哀たちの銃撃を阻止する。
「『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」
億葉がマジックハンドを伸ばして、千景と万夜を回収する。千景が呟く。
「た、助かったぜ、億葉……反撃といこうか」
「はっ、そんなボロボロで大丈夫ですか?」
「ちょうどいいハンデだよ……」
「強がりを!」
千景の言葉に哀が銃を向ける。突如として御剣が声を上げる。
「盛り上がってきたな! 気が変わった! 私も混ぜてもらおう!」
「⁉」
全員が驚きの表情で御剣を見つめる。
「ど、どういうことですか?」
「言葉の通りだ、私たちが全員まとめて相手をしてやる」
愛の問いに御剣が答える。万夜が訝しげに口を開く。
「まさか六人をお一人で相手するつもりですか?」
「私たちと言っただろう? 又左と勇次、黒駆も一緒だ」
「にゃ⁉」
「マジで⁉」
「わ、忘れられてなくて良かった……じゃなくて! た、隊長⁉」
「お前らも隊員なのだから、演習に参加しない手はないだろう? 又左、変化しろ」
「ご、強引だにゃ!」
又左が戸惑い気味に巨大化し、御剣がそれにまたがる。
「さあ、かかってこい」
「な、なめやがって! 愛、治癒してくれ!」
「は、はい!」
愛が駆け寄り、千景と万夜を回復する。千景が叫ぶ。
「うっし、回復! おい、哀愁ツインズ! 一時休戦だ! ここは共闘と行くぜ!」
「ははっ! 分かりました!」
「覚悟しな、姐御!」
千景たちが御剣の方に向き直る。御剣が静かに睨みつける。
「ほう……私に勝てるつもりか?」
「……まずは野郎二人を潰す!」
「ええっ⁉」
御剣の迫力に圧されたのか、千景たちが勇次たちに襲いかかる。
「うおりゃあ!」
「「ぐああっ!」」
千景たちの猛攻に勇次と三尋があっという間に倒されてしまう。御剣が感心する。
「ふむ……突然の共闘だが、意外と連携が取れているな……」
「こ、今度こそ姉様、お覚悟を! わたくしの声で動きを止めます!」
「ま、待て! 全員分の耳栓を準備してねえよ! 味方のことも考えろ!」
「巻き添えは御免であります!」
「……前言撤回。連携はまだまだこれからだな……上杉山流奥義『凍風』……」
「うおっ⁉」
刀をかざした御剣の周囲に冷気を帯びた強い風が吹き、トリオとツインズが凍り付く。
「……あ、危なかった……」
「お、愛、回避していたか。なかなかの危機察知能力だな」
「……初めからこれが狙いだったんですね?」
「あれこれと説明するよりは、直接戦った方が互いの理解が進むと思ってな」
「それでも文句が出そうですが……」
「まあ、ご機嫌取りは一応考えてあるさ……」
御剣は刀を納めて呟く。
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