とある場所に四人の屈強な男たちが現れる。男たちは順に名乗る。
「『力』の鮭延川、ここに……」
「『心』の岡清水、ここに……」
「『技』の里見村、ここに……」
「『知』の氏家原、ここに……」
「……『加茂上四天王』さま、丁寧な自己紹介、痛み入ります……」
「って、その声は⁉」
「神不知火副管区長⁉」
「なぜここに⁉」
「加茂上隊長は⁉」
露骨に動揺する四人に、神不知火はため息をつきながら、部屋の明かりを点ける。
「部屋の明かりくらい点けましょう……」
「い、いや、暗い方が、雰囲気が出ますので……」
「なんの雰囲気ですか……」
「秘密の会議という雰囲気です」
「お陰で部外者の私に入られてしまっているではないですか……」
「しかし、なぜ副管区長がこちらに?」
「管区長……加茂上隊長の代理で参りました」
「隊長はどちらに?」
「所用の為、とある場所にいらっしゃいます」
四人との会話を神不知火は淀みなく続ける。
「しかし、今日は何故に集められたのだ?」
「ああ、我々四人が集められるなどよっぽどだぞ?」
「なにか緊急事態か?」
「その可能性が高いかもしれんな?」
四人が揃って首を傾げる。神不知火が尋ねる。
「意外ですね。四天王の皆さんが揃うのは珍しいのですか?」
「ええ、滅多にないことです」
「普段は我々、隊の管轄である山形県の四方をそれぞれ任されておりますから」
「こうして顔を合わせるのは本当に数ヶ月ぶりかもしれません」
「リモート会議は週5で行っておりますが」
「……ほぼ毎日ではないですか」
神不知火が戸惑う。
「まあ、連絡は密に取るに越したことはありませんから」
「半分飲み会のようなものですが」
「実質、週3で飲み会ですね」
「いや、週4だな、皆酔って覚えていないだけだ」
「「「「はっはっは!」」」」
四人は声を上げて笑う。
「間違いない!」
「確かにそうだな!」
「気が付いたら、寝落ちしているからな!」
「この間なんか……」
「……おほん」
「「「「!」」」」
神不知火が咳払いをすると、四人が真面目な顔つきになる。
「仲がよろしいのはよく分かりました……話に入ってもよろしいでしょうか?」
「「「「はっ!」」」」
四人が揃って答える。神不知火が頷いて話を始める。
「……第五管区の上杉山隊と武枝隊が東北管区に侵入してくる模様です」
「なんと! 侵入ですか⁉」
「ええ、侵入です」
「何のために⁉」
「詳細は申し上げられませんが、加茂上隊長の邪魔をしたいようですね」
「それは確かな情報なのですか⁉」
「はい、裏も取っています」
「隊長はご存じなのですね⁉」
「もちろんです」
神不知火は四人の質問に淡々と答える。四人はしばしの沈黙の後、口を開く。
「これはつまり……」
「ああ……」
「そういうことになるな……」
「腕が鳴るな……」
「……皆さんお察しの通りです。上杉山隊と武枝隊の両隊を足止めして欲しいのです」
神不知火が告げる。
「侵入経路に関しては?」
「掴んでいる情報通りならば、この経路を通るかと……」
「四通りですか?」
「ええ、よって四天王の皆さんの出番というわけです」
「足止めというのは?」
「穏便で話し合いで済むならそれに越したことはないと管区長はお考えです」
「済まない場合は?」
「……実力行使もやむを得ません。恐らくそうなるでしょう」
四人からの問いに神不知火は答え、机の上に情報端末を置き、画像を表示する。
「……!」
「両隊は合同作戦ということで、協働部隊を結成しました。情報によると、このような組み合わせで、それぞれのルートを通ってくる模様です……」
「では、我らが隊長に比べて知性がなさそうなこの連中は……鮭延川が片付ける」
「大丈夫ですか?」
「なんの、『力』で圧倒してみせます!」
鮭延川が雄々しく答える。
「では、我らが隊長に比べて技量が不足そうなこの連中は……岡清水が対処する」
「平気でしょうか?」
「なんの、『心』で凌駕してみせます!」
岡清水が勇ましく答える。
「では、我らが隊長に比べて精神が未熟そうなこの連中は……里見村が処理する」
「よろしいですか?」
「なんの、『技』で制圧してみせます!」
里見村が猛々しく答える。
「では、我らが隊長に比べて膂力が不全そうなこの連中は……氏家原が始末する」
「問題ないですか?」
「なんの、『知』で超越してみせます!」
氏家原が凛々しく答える。
「ふむ……それではお願いします」
「副管区長は?」
「私は別行動を取らせてもらいます」
「別行動?」
「申し訳ありませんが詳細については言えません」
「隊長には誰もついてなくて良いのですか?」
「その点は大丈夫です、心配無用です」
「今から行動開始ですか?」
「ええ、そうですね……各自持ち場について下さい」
「「「「了解!」」」」
神不知火の言葉に従い、四人はその場を離れる。
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